7話 �� ページ36
場所を変えて特別クラス。
「けど、名前のとこは確信が持てんのよね。“加藤”は間違いない思うんやけど、“行利”か“利行”かがハッキリせんのよ」
持ってきたノートを見せながら説明すると、皆は一斉に溜息を吐いた。
いの一番に若武が口を開く。
「ほら、やっぱり大事件だったじゃないか」
喜色満面に笑って、寄り掛かっていた黒板に『子ども誘拐事件』と書き込んだ。
「こいつは、前の事件よりデカいぜ。立花、捜査会議の記録を取れよ」
鞄からルーズリーフを取り出して、バインダーを開く。
でもなあ、これが本当に誘拐の脅迫状として使われたかは、証明出来ひんのよね。悪戯って可能性もあるし。
僕が小さく唸って、そう考えていると、小塚が不安そうに、おずおずと口を開いた。
「ねえ、警察に届けた方が良くないかなあ」
言いながら、僕達を見回す。
「だって、誘拐だったら前の事件と違って、命に関わることだろ。早くしないと、危ないかもしれない」
それに、上杉が待ったをかけた。
「もし誘拐が本当なら、何故犯人は、そんな重要な手掛かりの残る本を、わざわざ図書室に戻したんだ？黙って捨ててしまえばいいじゃないか」
若武が、片目を眇めて悔しそうに言う。
「じゃあ、ただの悪戯ってことか？」
上杉は頷いて、慎重に答えた。
「かもしれない」
若武がガッカリしたように溜息を吐いたのを見て、僕は笑って口を開く。
「それじゃ、事実確認だけでもしようや。誘拐が本当にあったんなら大変やし。そうじゃなかったら、ま、無駄足ってことで、それはそれでええやん。他人様に迷惑かけるわけちゃうし」
そう言うと、若武が気を取り直すように、黒板を叩いた。
「立花の言う通りだ。俺達は、これから誘拐が本当に行われたかどうか、脅迫状が本物なのかどうかを確かめるんだ。探偵事務所の名誉にかけて、真実を突き止めよう。な、そうしようぜ！」
若武の演説により、全員一致で捜査を開始することになった。
僕達が頷くのを見て、若武は企んだような表情で、満足そうに笑う。きっと今、若武の頭の中は事件を解決して、テレビや新聞の取材陣に囲まれている自分の姿で、いっぱいに違いない。
僕が溜息を吐くと、若武はワザとらしく咳払いをして、黒板に向き直った。
「まず、わかっていることを整理しよう」
カタカタと音を立てて、文字を並べていく。
「被害者は、加藤行利、もしくは利行の子供。特徴、年齢は不明。犯行場所、不明、犯行動機、不明」
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作者名：みずいろ。 | 作成日時：2021年6月24日 18時
