15話 �� ページ16
ボサボサとした首まである長髪、長い前髪の下で異様にギラつく二つの目、青白い頬にきつく結ばれた口、細い手足。
その手の中に握られた金属バットに、口角がひくつくのがわかる。ああ、若武、侵入するのはこの際もういい。が、バレてんじゃねーよ。
足音を忍ばせて車庫のほうに歩いて行く男に続いて、息を殺しながらフェンスを飛び越えた。4mほど間を空けて男の後をつける。パーカーのポッケを探り、硬球の野球ボールを取り出した。自転車から離れるときに持ってきたのだ。野球をしているわけではないが、よくシャオロンとキャッチボールをするため、いつも自転車のカゴに置いている。僕には大きいが、何もないよりマシだろう。
ついに車庫に辿り着き、男はシャッターの脇にあるドアにそっと手をかけた。音を立てないようにゆっくりとノブを回してドアを開くと、中から明かりが漏れてくる。少し眩しくて目を細めた。男はそのドアを全部開け、そっと中に入る。それを見て、開けっ放しのドアに近付いて中を覗き込んだ。
目に映ったのは、こちらに背を向け、床に片膝をついている若武と、その頭上にバットを振り上げている男の後ろ姿。バットが赤く染まって見えて、うぶげが逆立った。
反射でボールを投げて、若武の名前を叫ぶ。
「若武えッ！」
若武が振り返ったと同時、バットを振り下ろそうとした男の肩に、僕が投げたボールがヒット。衝撃に身を固くし、手からバットを落とした男の後頭部に、若武が鋭い蹴りを放った。鈍い音がして男が倒れる。
若武も咄嗟の行動だったのだろう、呆然と僕を見詰めて、それからフラフラと近付いて来た。頬は震えていて、黒々としたその目は緊張のあまりにところどころ光って見えて、満天の星空のようだ、と冷静な部分でそう思った。
「立花、」
若武は喘ぐように息を吸って、震える声で言葉を紡ぐ。
「俺、一生、お前に感謝する」
それを、僕はどこか遠くで聞いていた。
「あと、サッカーにも。足強くしといて、よかった」
そう言って息を吐いた若武に、プツリと何かが切れた音がした。多分、緊張の糸とか、そこらへんだと思う。
手を伸ばして、トン、と胸元に触れる。あったかい。正常よりは速いけれど、きちんと鼓動を感じる。
そのまま胸倉を掴んで、驚いた様子の若武を見上げた。
「ふざ、っけんなよ」
ふるふると腕が震えているのが見える。
「浅慮で短絡的に行動してんちゃうぞ。考える頭があんねやろ、最悪の事態を想定できんかってん？」
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作者名：みずいろ。 | 作成日時：2021年6月24日 18時
