14話 �� ページ14
僕が大きなため息を吐くのに続いて、上杉は首を横に振る。
「危険すぎる。犯人は凶器を持ってるに決まってるし、強盗の直後なんだ。相当興奮しているだろう。やられちまうぞ」
上杉がキッパリと言うと、若武はふくれた。
「他にどんな方法があるって言うんだよ。こんなすごい凶悪犯を、野放しにしとくのか」
「方法は、一つだけさ」
そう言って上杉は、黒木を見据える。
「つまり、このレコーダーと犯人の住所を書いたメモを封筒に入れて、差出人の名前を書かずに警察に届ける」
ん、ベストはそうだよな。
頷く僕の向かいで、若武の顔からは輝きが消えていく。
「そうすれば、警察は極秘で調査を進める筈だ。5月1日までにもっと確実な証拠を掴めば犯人を逮捕するだろうし、それが無理でも、当日はきっとセブンイレブンをガードする。つまり犯罪は防げるってわけさ。そうだろ、黒木」
自信満々な上杉に、黒木は軽く頷いた。
「上杉教授のおっしゃる通りだ。これしか方法は無いね」
皆で頷いていると、若武がおずおずと口を開いた。
「せめて、俺達がやったってことだけでも、警察に知らせることは出来ないかな。盗聴については言わずにさ。だって、せっかくここまで犯人を追い詰めたんだぜ。全部、俺達がやったんだ。それなのに、」
言い募る若武を、黒木と上杉がバッサリと切り捨てる。
「出来ないね。諦めろ」
「レコーダーは今夜ダビングして、片方を明日の朝、ポストに入れる」
若武は泣き出しそうに顔を歪めて、情けないことをブツブツと呟く。
それを見て、黒木はニヤッと笑った。
「世の中には、そういうこともあるさ」
「そう」
黒木の言葉に強く頷いて、上杉が突っ込む。
「たまにはひっそりと善行を施すのもいいことだ。お前は、いつも自分のしたこと以上に宣伝しすぎるからな」
小塚も楽し気に賛成する。
「若武が人知れずいいことをするなんて、すごいよ。今世紀最大の事件だ」
最後に僕が言った。
「自転車のことは、不幸だと思って諦めた方がいい」
すると、若武は我慢できないといったふうに勢いよく立ち上がった。
「ああ、どうせお前たちのチャリじゃないからな。好きなこと言ってろよ、バカ野郎」
そっぽを向いてそう言った様子が、不貞腐れた幼児みたいで、僕は思いきり吹き出してしまい、つられて皆がドッと笑った。若武はむくれ上がって僕達を見回したのだが、その顔がまたおかしくて、僕達はますます笑い転げたのだった。
お腹が筋肉痛になるかと思った。
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作者名：みずいろ。 | 作成日時：2021年6月24日 18時
