Rcollection4 ページ4
深く息を吸い込んで肺を酸素で満たし、ゆっくりと吐き出す。それを繰り返す。
満身創痍の彼女は早く万全な状態まで回復したかった。気が急くのは当然のことだ。しかしここで焦って事を行えば、かえって遅くなる。だからなるべくゆっくりと。
気持ちを落ち着かせるため、彼女は必死に温かい記憶を手繰り寄せて思いを馳せた。
母が笑っている。父も笑っている。手を差し伸べられる。その手を取る。温かい。
場面が変わる。昼下がり。三人家族で木製のテーブルを囲み、パンを食べている。美味しい。柔らかい。
とんとん、と扉が叩かれる。父が伺う。大きな青い影と黄緑色の影が見える。他にもたくさん。黄色、緑、水色、桃色…。みんなが口々に何かを言っている。よく聞き取れない。お母さん、あの人たちは──。
母が顔を強ばらせる。なぜ。
父が倒れる。なぜ。
影たちが入ってくる──なぜ。
「……っは」
彼女は真っ暗闇の中、思い出したように顔の前に手をかざした。口元で何かを唱えると、手のひらに仄かな光が宿り、彼女の顔を淡く照らした。
泥と傷ばかりだった。力なく垂れた眉と半分ほど閉じられた瞼。その奥に潜む淀んだ色の瞳。そして黒ずんだ口元。
惨めな様が彼女の表情をますます哀れに見せた。
手を地に押し付けると一瞬光度が増し、暗くなる。手のひらから黒い渦が地を滑って、たちまち彼女を呑み込んだ。
中は気がおかしくなりそうなほど何も無い暗い空間で、そこで彼女は身体をを丸め、じっと時が過ぎていくのを待つ。
同刻、洞穴の外をいくつもの足言が慌ただしく通り過ぎていった。どこに行ったとわめき散らす低い声が森に反響して彼女の耳にまでも届く。悪口雑言に、体を震わせることしかできないことは苦痛であった。
だから心の中で何度も願った。見つかりませんように。見つかりませんように。見つかりませんように――。
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ユメコ(プロフ) - 抹茶餡子さん» すごい時間かかってでも完結させたい意向 (10月27日 8時) (レス) id: a15a19cfdf (このIDを非表示/違反報告)
抹茶餡子(プロフ) - 生きてた!!!!!!??????久しぶり!!!!ありがとう!!!!!!(餡子) (10月27日 6時) (レス) @page4 id: fcff9db541 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユメコ | 作成日時:2021年4月25日 6時