口から伝わる【チェンソーマン】 (ページ8)

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「それに情に流されるのも悪くないですよ。信じられる人になら」
「酔って誤魔化しちまう前に言っておくわ」

先輩は正座してAに向き直る。

「ありがとうございました。貴方に助けられたご恩は一生忘れません。…敵わなかった俺の夢をお前に託す」

冠城は深々と頭を下げて言った。
Aは目を細めて笑った。もう何人もの相棒が公安をやめていった。みんな恨みを持って公安に入ってきたがそれをAに託して辞めていく。

「冠城先輩の夢は俺が継ぎます。だから他の夢を見つけてください」

10年間の殺しを報いるわけではないが、公安に拾われてから反対の世界で生きてみたいと思っていた。人から感謝されるのも悪くない。

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ガチャリとドアノブに手をかけて開くと早川家は暗かった。
あれ？まだ帰ってきてないのか、それとも姫野先輩と飲みに行ったのか。そう思いながら靴を脱いで家に上がった。キッチンまで上着を脱ぎ、ボタンを手早く外した。冷蔵庫に手をかけた時にベランダに静かに佇む早川の姿を見つけた。

「居たんですね」
「………」

何も言わないまま、早川はこちらを振り返りへりに肘をついてAを見つめた。Aは返事が無いことはさほど気にせず、ペットボトルに口をつけて水を身体に流し込む。溢れた水が口の端を伝って喉まで流れる。ペットボトルから口を離して、袖口で口を拭った。

「何で声、回復してんだ」
「へ？」
「今朝討伐してきたんだろ。能力を使ったはずなのに何で」

早川には自分の能力と契約した悪魔の話をした。
声が出ない代償の話をして、その特殊な回復方法も伝えた。

「止む終えませんでした」
「チッ。…前にやめろって言っただろ」
「すみません」
「相手。誰だよ」
「確か京都から公安の人。いい人でした」
「気持ち悪い…」
「アキ先輩がいたら一番ですよ」

そういうと早川が喜ぶのを知っていた。何故か僕から特別扱いされたがっている。
早川は吸いきったタバコを捨て、新しいものに火をつけようとしてタバコほ箱に手を伸ばした。

「吸いすぎですよ」
「いーんだよ、お前も俺の言うこと聞かないだろ」
「はは、そうですね」

Aはお手上げと手を上げて笑って風呂場へと向かった。