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人肉を焼く様を暫し見ていたが、やがて視線を外し道無き道を歩き始めた。しかし食べるものは無論無い。ジャングルを歩き回り、方向感覚が無くなり始めた頃、彼の耳に草をかき分ける音が入った。
慌ててあたりを見回す。山口は偶然あった、誰かが掘ったのであろう岩穴にさっと潜り込んだ。
足音から「軍靴だ、友軍か敵か」と思考していると、右耳の近くを何かが空気を切った。
突撃の際に頸部をかすった銃弾が脳裏でフラッシュバックし、つと目を見開く。
「銃撃痕がある死体が転がっている場所は、そこに敵が来た証拠だ」
ゴボウ剣がギラリと輝く。米兵のカタコトのものではない、滑らかな日本語。山口が思わず振り返ると、穴からゲートルを巻いた足が見えた。
「友軍だ、落ち着け。しかし貴様、俺が米兵だったらどうするんだ。すぐに御陀仏だぞ」
そう言って声の主は、穴の外から自分の首元に突きつけていた銃剣を退かした。
落ち着けとは言われたものの、未だ警戒心は解けない。万一の時応戦できるよう銃剣を構え、意を決して岩穴から出た。
相手は確かに日本兵であった。階級章を見るに自分と同じ一等兵。年も近いようだ。
頸部に銃創があり、右脚にはゲートルの上から布のようなものを巻きつけていた。
此処にやって来る前に何かあったのだろうか。鉄兜を被っており、目元が見えない。いや、もしかしたら常に被っているのかもしれない。
見てみろ、と言うように首を促す方には、三、四人の日本兵の死体があった。
機銃掃射を受けたのか敵に遭遇し機関銃で撃たれたのか、此処からは見えないが、彼は今さっき詳細を見たらしい。
「此処は危なそうだ。別の場所に移動しよう」
そう言われ、二人で崖状態に近いジャングルの道を歩いた。
その最中は、終止無言。相手から話して来ることは無かったし、だからといって自分から話しかけようとも思わなかった。
ただ二人の腹だけが会話していた。
崖の道を抜け、やや広い山道に出た所で、彼は近くの岩に腰掛け水筒に口を付けた。自分も同様に、乾いた喉を潤そうと勢いよく飲んだ。だが水を飲んで腹が満たされるわけもなく、腹の音は相変わらず寂しそうに鳴っていた。
ここ三日間、なにも食べていなかった。三日間とはいっても、それ以前も食べたとは言えない量なのだが。
それに同意するかのように、彼の腹も唸るように鳴った。
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作者名:嵩画@ブレリオ式単葉機 x他1人 | 作者ホームページ:
作成日時:2017年9月9日 22時