死人 (ページ5)

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やはり、彼は死んでいた。

す、と視線を背中の鞄に移す。
米は死ぬ前に全て飯盒で炊いて食ってしまったようだが、手榴弾がまだ2つと弾が少量残っていた。
荷物が重くなるが、武器は多い方が良い。
手榴弾自決じゃなくて良かった。
「貰ってくぞ」と仏に手を合わせ、背嚢や雑嚢を漁った。
と、はみ出していた何か古い紙のようなものがひらひらと自分の足元に落ちた。
なんだ？と拾い上げて見ると、写真であった。
この仏が新しげな軍装に身を包み、その隣には赤ん坊を抱いた嫁と思わしき女子。

と、突然何処からか視線を感じて思わず体勢を低くし辺りを見回したが、気配は無い。
はっと顔を上げて仏の兵士の顔を見上げたが、彼は死んでいるだけ。その穏やかな死顔を見ていると、何故か心が浄化されるような気がした。

「お前さんのせいで、俺は自決出来なくなったよ」

山口はそのしわくちゃの写真を丁寧に折り畳み、上着のポケットに入れ、またそこに座り込んだ。

ここ最近、根のような芋しか食べておらず空腹に鳴く腹を摩り、暫くそこでぼうっとして居ると、若干右脚が疼き始めた。
今まで全く気にしなかったし、気が付かなかったのだが、もしやと思って見てみると、脹脛に巻かれた泥塗れのゲートルに、若干赤黒い水が染み込んでいる。
慌ててゲートルを解いてみると、脹脛の肉が抉れているではないか。
やられた、と自嘲気味に失笑した。
巻かれていたゲートルは破られていなかったから、今これを解く前に、解いて傷を見て巻き直した事になるのだが、一体いつゲートルを巻き直したのか、いつ抉られたのか、全く記憶になかった。

…ああ、死とはなんと惨いものか。
穏やかな死顔に似合わぬ、何という惨さか。

やがて立ち上がり歩き出す山口の右脚には、先程の落伍者から剥いだ軍服の裾が巻かれていた。
不思議と痛みはなかった。