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割れるような音の後にがぎぎぎ、と圧に軋んだ音が続く。反射に遅れてやってきた脳信号に、山口は一切を理解した。

最初から自分があの穴にいる事に気付いていて、この兵士は自分が居た穴に銃剣を突っ込んできた。それで反応を見ようとしたのだ。…自分が生きているかどうか、確かめる為に。
あの時自分が僅かにでも反応しなければ…いや、言うまでもない。

力は互角に思えたが、彼のほうが少し上だったらしい。
小銃のさらなる圧に耐え切れず山口が押された、その隙を見て脚をかけてきた。
かけられた払いの力をなんとか踏ん張って堪えるが、そのせいで脚が広がってしまい、小銃からの圧に耐えられる体勢ではない。右脚がじくりと痛んだ。そのまま前からかけられる圧に仰け反るようになり、しまいには地面に尻餅を着いた。
相手がそれを見逃すわけもなく、自分の体にのしかかり、右手で銃剣を突き刺そうとし、左手で首を絞めにかかってくる。

苦しい。視界がだんだんぼやけていく。酸素、酸素が欲しい。
左手で相手の銃剣を掴み、右手で首を絞める腕を離そうと必死になるが、徐々に首を絞める力は強くなる。

最後の力振り絞って、自分の首を絞める腕を思い切り引き離そうとした。
首にかけられていた相手の体重が、一瞬和らいだ。
やがて山口は相手の手を完全に引き離すと、しばらく取っ組み合いをし辺りを転げ周って、二人の銃剣は、そこらに投げ出された。

相手を押し倒してのしかかった、その瞬間、獣と対峙するような感覚でいた山口の全身を戦慄が雷のように駆け巡った。

相手の被っていた鉄兜が、…押し倒した際の衝撃だろうか、転げ回った時だろうか。気がついた時には向こうのほうに放られていて、円形の底を下にゆらゆらと不安定な回り方をして、止まった。
瞳の中にたたえられた獰猛さとは反し、どこか幼さが残るその顔。
自分だった。
彼の首を絞めていた手の力が緩まった。もうやすやすと逃げられるような状況なのに、彼は山口をじっと見据えたまま動かなかった。

密林を飛び回るおかしな鳥の鳴き声も、
どこかで撃ち合いをしているのであろう銃声も、
五月蝿い蝉の声も、

全部全部無くなった。


鉄兜の裏に、同期によく笑われた汚い字でヤマグチと書かれているのが見えた。

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作者名:嵩画@ブレリオ式単葉機 x他1人 | 作者ホームページ:   
作成日時:2017年9月9日 22時

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