夜明けが希望でありますように (ページ8)

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「いつも何時くらいに帰ってるの？」

問題集やペンケースを端に寄せ
夕食を囲み食べながら会話をする
犬飼はあまり聞かれたくないような内容を
遠回しに聞いてくることが多い
察しが良くいろんなことに気づき
人への気遣いも忘れない
それが本心からなのか上辺だけの言葉なのか
少し気になるところだけど
私とこうして話す時は本心なのではないかと思う
ここでは誰にでも向けるあのヘラヘラとした笑みを
犬飼は見せないから
その方が私も気が楽だった
『んー…何時だろ、いつもバラバラだから』
でもそれが全てを話す理由にはならない

「俺が送れる日は良いけどさぁ」

『犬飼が気にすることじゃないし
　そんな深く考えないでよ』

「またそんなこと言う」

犬飼は肩をすくめてため息を吐き視線を下に下げた
そこには食堂で頼んだサンドイッチが2切れ
犬飼の前にはパスタが置かれ
フォークとスプーンで綺麗に食べている
夕食にしては
私の食事は軽すぎるとでも言いたいのだろう

『……いつも、夕食たべないの』

窓の外を眺めながらポツリと吐き出す
嘘をつく時は少しだけ真実を混ぜると信憑性が増す
犬飼もそれが分かっているから話しづらい
どうせ嘘なんてすぐにバレる
サンドイッチの1切れを犬飼のお皿の上に乗せ
『ごめん、食べれない』そう言って笑えば
「今回だけだよ」とサンドイッチを口に含んだ

ボーダーに背を向け歩き始めた時には
既に21時半になっていて真っ暗な中を歩くには
5月の気温は少し肌寒い
隣を歩く犬飼と私の足音だけが響くこの空間は
いつもの日常から外れた気がして何も考えずにいられた

「そこまで帰りたくない理由ってなんなの？」

『犬飼にしてはストレートに聞くね』

「はぐらかさないでよ」

『家族って1番難しい関係じゃない？』

「それが理由なんだ」

『いろいろあるんだよ』

その言葉を最後に黙ったまま歩き続け
結局犬飼は家の前まで送ってくれた
『ごめんね、送らせて』
「そう思うならはやく帰ってよ」
そうやって笑う犬飼は優しい
理由を聞いたのに深くまで入ってこない
お互いその距離感が良いのだと知っているんだ