見つけた光 ページ35
鋭い痛みが体に走るんだろうなと他人事のように考えた
ブンッと音が鳴りそうなくらいの勢いで
振り下ろされる拳の痛みを逃すためにきつく目を瞑った
でもその痛みが来ることはなく
代わりにパンッと乾いた音が耳に響いた
目を開けば視界に広がったのはオレンジだった
男が振り下ろしてきた拳を右手で受け止めて
私と男の間に入り込み前に立つ
その後ろ姿は細くて男子にしては筋力だって少ないと思う
でも恐怖も不安も一瞬で無くしてしまう
「お兄さん、悪いんですけどその手ェ
離してもらえます?」
水上が目を細くして睨むと手首を掴む力が弱くなって
すぐに自分の方に左手を寄せた
バタバタと音を立て男は走っていった
『水上…あの、ありがとう』
振り返った水上はいつもと同じ無表情で
ポケットに手を入れて何かを取り出すと
「ん」と私の前に突き出した
受け取った感触でお金だと分かった
きっとカゲウラに置いていったものだと思い
『これ…返さなくていいよ』と
水上に返そうと持ったままになってしまう
「いや、返さんでええて…
お前どんだけカゲウラに出資するん」
『私だって食べたから』
「あんなちょっとの量誤差の範囲やろ
それにな、どんだけ食っても
5千なんて額にはならんやろ」
『手持ちが5千円札しかなかったの…!』
「はぁ?」という水上に財布の中を見ながら
『やっぱり千円札切らしてる…』と続ければ
「お前…それ高校生が持つ金額やないで」と
引き気味に言われた
『S級だからね、水上より稼いでる
だからそのお金もあげる』
「お前に貢いでもらうほど金に困ることないねんな」
『ならカゲウラ戻ってそれ払ってくる?』
「お前の財布ん中に戻せばええやろ」
『……それは、違うじゃん』
はぁ…と大きくため息をついた水上は
バックから自分の財布を取り出してゴソゴソと探った後
「ほれ」とまた私にお金を渡してきた
『両替?』と聞けば
「お前目ついとん?4千しか渡しとらん」と言って
私のものだった5千円札を財布の中に入れた
「千円儲けたわ」という水上の隣を歩きながら
この人は本当に捻くれてるなと思った
手元にある千円札は何度も数えても5枚あった
5千円札って自販機では使えないし
高い買い物をしない限り使いづらくて
いつも財布の中に残るお金だった
今日の気分は最悪だったのに
君の不器用な優しさが私を幸せにさせる
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作者名:lei | 作成日時:2023年9月15日 23時