夜明けが希望でありますように (ページ34)

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水上side

「悪いけど俺も帰るよ」
そう言った犬飼は
雨宮の置いていったお札を持って立ち上がった
少し焦っているのかいつもの余裕な笑みがなかった
立ち上がって身を乗り出し犬飼の持ったお札を奪った
「え…？なに」
今にも走り出しそうな犬飼は
驚いたようで目を見開いていた

「お前はそれでも食っとき」

指で示したところにはさっき焼いたお好み焼きがある
王子に詰め寄られた雨宮を助けなかったのは
俺も王子と同じことを聞きたかったから
ずっと気になっていたことだったから
その考えを否定するつもりはない
ただあんな雨宮の顔はもう二度と見たくないと思った

「俺が行くわ」

揉めているカゲと王子を押し退け雨宮の元へと走った

もし私が物語の主人公だったら
きっと1番助けてほしいと思った時に
手を差し伸べてくれる人がいたのだと思う
それが誰でも良かった
助けてくれるのなら
きっとそれだけでこれからの未来を
楽しみにできたと思うから
あの人に助けてもらった自分だから
頑張ろうって思うことができた
でも現実にそんなヒーローも英雄も
存在しないんだって気付いたのは全部失ったからだろう

手を振り解くことができなかった
自分よりも大きな手は手首を掴んで離すことはなく
このままだとまずいと分かっていても
どうすることもできなかった
トリガーを起動させれば
少し怯んだりしないのかなと考えたけど
ボーダー隊員が正当防衛とはいえ
市民を傷つけたなんてことがあれば
確実に処分は免れないだろう

もういいんじゃない？
ここまで頑張ったでしょ
もうやめなよ

そうしたい
全部終わりにしたい
でもそれでも頑張ってこれたのは
いつだって浮かんでくるあの人がいるから
全部無くなった今でも私が見つけた光だから
まだもう少しだけ
諦めたくない

空いている右手で
男のみぞおちあたりを狙って拳を入れた
上手く当たったのか「…いってぇ！」と大きく声を上げた

「は……ふざけんなよ」

見下すように睨む男に負けじと睨み返した
でもそれは相手の反感を買ってしまったようで
男は左手を振り上げた
あ、殴られる
そう思ったけどまだ左手が掴まれたままで動けなかった