夜明けが希望でありますように (ページ30)

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「まぁそれくらいにしときなよ」と隣から
フォローに入れる犬飼に
「スミ君も気になってる癖に」と笑ったまま続けていく
王子の目の奥に優しさや慈悲の心なんて
1つも映っていない
ただ自分の好奇心を満たすため
だからいつも通りの笑顔で
なんとも思っていないように返さなければいけない
苛立ちも焦りも出してはいけない

「みんな思ってるでしょ？」

ここからは見えないけどきっと村上は慌ててるし
当間は王子を止めるつもりなんてない
自分も同じ思いでいるから
さっきの機嫌の良さはどこに消えたのか王子を睨みつけ「おい」と低い声を出す影浦と
目の光が消えた犬飼
そして何も言わない水上

「姉妹だと言っているけど
　どうして緒音ちゃんと君は似ていないのか」

王子はブラックトリガーを使っていると知った時から
私にその目を向けていた
愉しむように疑うように
でもそれは私だけではなく
緒音にも同じように向けられていた
華やかな容姿と振る舞いからは考えられないほど
その奥にある暗さみたいなものが怖かった
犬飼にも似たような感覚を持つことがあった
でも犬飼には人を思う気持ちを
全面に出すところを見たことだってあった
王子にはそれがない
自分がそう思うだけかもしれないけど
人は自分を楽しませるための
おもちゃとでも思っているようなその目が
私は嫌いだ

テーブルに手をつき顔を近づけ
「何か言いなよ、雨宮」と王子が言った時
何かが切れるような気がした
今まで積み上げてきたものが崩れる音がした

『当たり前でしょ

　私は雨宮の人間じゃないんだから』

自分の財布からお金を取り出し机に置いて
『どいて』と言って王子を押しのけた
意外とあっさり退いた王子は後ろにふらりと1歩下がった
「雨宮？え、ちょっと…！」
焦った犬飼の声が聞こえたけど
今はそんなのどうでも良かった
ここにもいるべきなのは私じゃなかった
そう考える頭は冷静で心は焦ってる
カゲウラから出て自分の家に向けて
歩くペースをはやくした
私のいたテーブルの空気は最悪で
まだ全員が状況を理解できずに固まっている頃かな
そんな風に考えていれば
いきなり後ろから肩を掴まれ反射的に振り払った
「こんな時間に1人？危ないよ〜」
そこにいるのは全く知らない人
世間一般でいうナンパというやつだ
無視して再び歩き出そうとすれば
「え、無視って酷くない？」と手首を掴まれた

『……っ！』

嫌だ、気持ち悪い
そう思って振り解こうとしても
男性の力に敵うわけがなかった