夜明けが希望でありますように (ページ29)

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「今日予定でも入ってた？」
右奥に座る村上が焼いてくれたお好み焼きを
お皿に移している時
隣にいる犬飼はそう言って首を少し傾げた

『なんで？』

「髪巻いてるから、それにメイクもしてるよね
　普段からしてるみたいだけど
　今日はいつもより頑張ってる」

毛先を指差しながら言う犬飼に
こんな細かいところに気付くのに
なんで彼女できないんだろうと思ってしまう

『ううん、ただの気分』

本当はいつもみたいに
ヘアアイロンを通すだけで良いと思った
でも自分で髪を持ち上げた時
水上の指先が脳内でチラついた
それが嫌でもう巻いてしまおうと思って時間をかけた
それなのに軽くメイクをした時は
もう少し頑張ろうかなんて思ってしまうのだ
水上がそれに気付くとは思えないし
気付いたってそれで心が揺れることなんてない
自分の自己満足でしかないのだ

お皿に盛られたお好み焼きを
1口サイズに切って口に入れた
前に座る影浦は「上手いだろ」と自慢げに話しかけてきた
口の中にお好み焼きの香ばしさが広がり
それをゆっくり飲み込んで『うん、美味しい』と返した

『熱いけど』

「知るか」

『猫舌なの』

「水でも飲んでろ」

水の入ったコップを目の前に置かれて
『ごめんごめん』と笑った

「そういや」とずっと黙っていた当間が
何かを思い出したように口を開いた

「水上、お前雨宮の妹とどうなんだよ」

「あ？別になんもないわ」

「それはないでしょ、ねぇ雨宮」

『え？あぁ…』

左側の席にいたはずの王子は面白いと思ったのか
いきなり会話に入ってきた
相変わらず王子の性格は読めない
王子があだ名を付けずに人の名前呼ぶのは本当に珍しい
以前私のあだ名を考える王子と出会した時に
やめろと言った勢いで顔面に拳が当たった時があった
笑顔で怒りを表現していた王子の顔は
今でも忘れられない

「お前に懐いてるもんな、ちゃんと餌やってんのかよ」

「知らんわ、勝手に付き纏ってくるだけやろ」

「クラスメイトと妹のいざこざなんて見たくないでしょ」

確信をついてくる王子に

心臓の嫌な音が聞こえ始めた