誰も知らないままでいて ページ3
今日も教室の前で深呼吸をして扉を開く
笑顔で挨拶をしてくれるクラスメイトに私も笑顔で返す
自分の席まで歩き椅子を引けば
既に学校に来ていた村上は
「おはよう」と声をかけてくれた
それに続くように穂刈も「おはよう、雨宮」と言う言葉に
『おはよう』と返した
隣の席のマスクを付け左手で頬杖をつく影浦に
同じ言葉を投げればチラリと目線だけをこちらに向け
「……あぁ」と返事をしては黒板へと向き直った
自分の右斜め後ろには明るいオレンジがチラつく
いつも私より先に教室にいる4人に
真面目だと感想を抱いたことがあったけど
関わってみると実際はそうでもなくて
真面目だと言われて頷けるのは村上くらいしかいなかった
机にうつ伏せている水上は
明るい髪色からなのかよく目立つ
水上が目立つのはそれだけの理由ではないけれど
この後起こる出来事にそう思い込むませる
勢いよく開いた教室の扉に目を向けるのは
ごく僅かの人達だけだった
「水上先輩！おはようございます！」
朝から元気な彼女は3年の教室でも関係なく入り
水上の席へと向かって行く
3年の教室であってもその姿に戸惑いはない
今となっては見慣れた光景に
クラスメイトは誰も反応しない
「あ？何、また来たん？」
眠く気だるそうに体を起こし目を擦り
水上は眉間に皺を寄せた
うざいとか鬱陶しいとか言いながらも
しっかり返事を返す水上は優しくてとても残酷
水上から目を離し私を見る彼女は少し嬉しそうに笑った
そして
「おはよう！お姉ちゃん！」
屈託のない笑顔を私に向けるのだ
きゅっと喉が締められるような
緊張で胃酸が上がってくるような
そんな感覚を持ちながら
水上からの刺すような視線に知らないふりをして
『おはよう』と笑顔をつくるのだ
「ほんと、仲良いんだな」
兄弟のいないという村上は微笑ましそうに笑った
恒例となったこの会話ももう慣れた
「HR始まっちゃうので戻りますね」
そう言って教室を出て行く妹は最後まで水上を瞳に映していた
その表情は純粋無垢な恋する女の子だ
隣に座る影浦は「…平気か」とぶっきらぼうに聞いてくる
『えー、なにが？』
そう笑って返しても
分かってはいるが影浦の表情が晴れることはない
「何が仲のえぇ姉妹や」
棘を含んだその言い方に隣の影浦は
自分が喧嘩を売られた時と同じくらい不機嫌な態度で
机から足を投げ出した
前の席の村上が既に黒板の方を向いてくれていて
良かったと少しだけ安心した
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作者名：lei | 作成日時：2023年9月15日 23時
