夜明けが希望でありますように (ページ17)

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私が戻って来た時には犬飼も辻君もおらず
そこにいたのは軽い笑顔を浮かべる迅さんだけだった
歩く度にペットボトルのお茶がチャポと音を立てた
『これ貰って』
迅さんの手にほぼ強制的にそれを握らせた
いつも訓練に付き合ってくれているのは
迅さんの方なのに毎回奢ってもらうのは申し訳なくて
せめてもの気持ちで渡した
それが迅さんには視えていて
「ありがとな」と言ってお茶を口に含んだ

「そろそろ戻るか」
そう言った迅さんは
いつもより歩くペースがはやい気がした
いつも人のために行動する迅さんだから
何か視えたのかもしれないと思い
それについていくよう追いかけた

「え、迅やん！こんなとこでなにしとるん？」

後ろから聞こえた声に嫌な予感がした
実際それは当たっていたようで
「やっぱりこうなったか…」と迅さんは苦笑した

「迅が女の子と歩いとる…、俺お邪魔やった？」

女子のように手を口元に当て迅さんに話しかけたのは
生駒隊の隊長である生駒さんだった
もう視界に入れないようにしようと思って
ここに戻って来た時は水上の方を見ることはなかった
しかしその間に生駒隊がここに集まり
しかもその中に緒音がいるという状況になっているとは
予想もしていなかった
迅さんはこの人達と鉢合わせないよう
歩くペースをはやめていたのだ
苦笑もしたくなるなと心の中で呟いた

「一緒におる子ってやっぱ迅の…」
「そういうのじゃないよ、前話した俺と同じS級の子」
「あぁ！えっと…結城、ちゃん？」
「雨宮かな」
「うわ、めっちゃ失礼なことしたやん」
「いや、間違ってはないんだけどね」
「え、どゆこと？」
　
生駒さんと会話をしながらも
こちらにチラチラと視線を送ってくる迅さんに
何が言いたいのだろうかと疑問を浮かべていた
最後にブースの出入り口へと視線を送ったことによって
先に行けという意味だと理解した
迅さんが避けたかった未来は生駒さんと会うことではない
その後に起こる何かだったのだと思った時には遅かった

「お姉ちゃん、あの迅さんと知り合いだったの！？」

あの純粋な目を光らせ距離を縮めてくる緒音に
『え？あ……うん』と絞り出したような声で返し
自分は1歩後ろに下がった
すごい、かっこいい、と興奮したように身を乗り出し
言い続ける緒音とは反対に
私は今にも暴れ出しそうな心臓を必死に抑えていた
心の中で何度も大丈夫と唱えても
心臓の鼓動は速さを増していく
視界が狭まる中焦ったように
声をかけようとする水上の姿が見えた