きっとそれは信頼 ページ16
迅side
周りが雨宮と呼ぶ中「結城」と呼び続けるのは
彼女のためだと自分を納得させるための行為なのだと
気付いたのはここ最近の話ではない
自己満だと言われるその行為に
彼女を巻き込んでいることも分かっていた
でもあの人が残したものがそれくらいしかなくて
せめてあの人を忘れないために
「結城」と呼ぶのを許してほしかった
ランク戦ブースがざわつき始めていたことには
自分でも分かっていた
ただブラックトリガーの使い方で悩む彼女を
このままにしていいわけではないこともまた事実だった
しかしその結果彼女を追い込んだ
あの全てを諦めたような表情を
これから何度見ることになるのだろうか
そう言えばきっと彼女はヘラリと笑みを作って
何も辛くない何も抱えていない
そんな風に自分を見せるのだろう
「それで？さっきのはなんですか」
犬飼と辻が来てくれたおかげで
暗くなりかけた空気が少し和らいだ
犬飼と会話をする姿見た時は
本来の彼女の表情と性格のような気がして
良かったと少し安心した
でもやはり犬飼は鋭いのだと思わされた
聞いてくるだろうとは思っていたけど
これでは言い逃れするのも一苦労だ
そんな犬飼だからこそ
彼女も本心で話せているのかもしれないと思うと
二宮さんはよく手懐けることができたなと思った
「俺がそう呼んでるってだけ」
「雨宮とは呼ばないんですね」
「色々と事情があってな」
俺の口から言えるのはここまでだった
彼女の許可なくこれ以上を話すのは
彼女の信頼を裏切ることだとそんな気がした
それを察したのか犬飼は「へぇ」と溢した
「犬飼先輩、そろそろミーティングの時間です」
さっきまでワタワタと慌ていた人と
同じとは思えないくらいハッキリと辻は言った
パッと明るく笑顔になった犬飼は
「それじゃ、また」と背を向けた
俺も結城のところへ行くかと考えた時
犬飼が「あ、」と振り返った
「俺ばっかり聞くのはフェアじゃないんで1つだけ」
「どうした？」
俺との距離を縮めた犬飼は
周りに聞こえないよう声量を抑え呟いた
「雨宮結構夜遅くまでボーダーに残ってます
俺が見てない時は
日付を変わる時もあるかもしれないです」
離れた犬飼は「知ってました？」と
万人受けする笑顔でも挑発するような笑顔でもなく
ただ心配しているという表情で俺に聞いた
「そうじゃないかと思ってたけど今確信になったよ」
困ったように笑った犬飼は軽く頭を下げて
辻と共に隊室へと向かって行った
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作者名：lei | 作成日時：2023年9月15日 23時
