夜明けが希望でありますように (ページ15)

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「結城！」

体の自由が奪われたように動かなくなった
何度そう呼ばれたって全く慣れる気配のない
無視することなんてできなくて振り返れば
少しホッとしたように迅さんは近づいて来た

「今は行かない方がいい」

そう言い放ちもう1度だけ私は水上の方へと視線を送った
ジッと見ていれば水上が少し動く度に人影が見えた
背丈や体格から生駒隊のメンバーでないことが分かった
それと同時に私の中に1番嫌な可能性が生まれた
水上が横を向く瞬間を見つめそうではないことを願った
しかしそんな願いが叶うはずもなかった
叶うのならば迅さんは私を呼び止めたりしなかった

当たり前だよね

どこかに放つわけでもなく心の中でその言葉が反響した
なんとなくそうではないかと思っていたけれど
違っていたらという期待もあったのだ
水上の隣には嬉しそうに笑う妹の姿があった

彼女も水上と同じシューターだったと
今になって思い出した
師弟関係にでもなれれば学校でもボーダーでも
毎日会い会話をすることができるのだ
そんなチャンスを逃すなんてありえない

私には無いものを持っている

ないものねだりの醜い嫉妬だ
この光景を見ることはどうってことない
いつも学校で見る光景と同じ
でもこの光景から連想される過去と未来が辛い
「行こうか」
そう言って迅さんは頭の上に手を置いて
少しだけクシャリと撫でて手櫛で髪をとかしてくれた

「あれ、雨宮？と迅さんじゃないですか」

歩き出そうとした時ふと聞こえてきた声に顔を上げた
ランク戦ブースの2階の柵に体重を預けて
片手で手を振り見下ろす犬飼は万人受けする笑顔を向けた
その後ろには辻君もいて目が泳ぎまくっていた
左右を見渡した犬飼は柵を飛び越え
「犬飼先輩？！」と焦る辻君を置いて
私達の目の前に着地した

『普通階段使わない？』

「この方がはやいし楽でしょ」

後ろから呆れたように辻君は階段を降り
犬飼の後ろに立つと遠慮気味に頭を下げた
女子が苦手と聞いていたため『お疲れ様』とだけ言って
視線を送らないようにした
「ここにいるのも珍しいね
　それに結構仲良さげ、みたいだしね」
そう言った犬飼は腹黒い笑みを浮かべていて
『顔に出てるよ』と言えばケラケラ笑っていた
ボーダーで有名な人達に囲まれて周りの視線が痛かった
『ちょっと飲み物買ってくる』と言って輪を抜けた

自販機へと向かう途中
ほんの一瞬水上と目があった気がしたのは
きっと気のせいだろう