【A3!】夜明けのデイドリーム【斑鳩三角】

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この季節らしくまる五日間も降り続いた雨によって増水した土手の川辺に、私はいた。
濡れたコンクリートの地べたに座り込んで、ごうごうと音を立てて流れる川に足を放り出し、為す術もなく黙って雨に打たれていた。
はあ、と吐いた息は雨の音に掻き消される。



＿＿＿＿＿＿死ぬつもりだった。




ひとりで生きていくには、
あまりにも失くしたものが多すぎたから。






「おねーさん、なにしてるの？」


このままここで溺れてしまえたら……。
ゆっくりと腰を上げ、水の中を歩こうと覚束無い足取りで一歩を踏み出し、水深が膝上くらいまでになった瞬間、誰もいるはずのない背後から突然聞こえた声。
驚いてバランスを崩し、その場で手をついて転んでしまった。バシャンと水飛沫が上がる。


「だいじょうぶ？」


また同じ声がしたので振り向くと、
ビニール傘を差した青年がこちらに歩いてくる。
私の目の前まで来ると傘を私に傾けて、
目線を合わせるためにわざわざ屈んでそう聞いてきた。


「……邪魔しないでくれますか？」
「おねーさん、ずぶ濡れ……。寒くないの？」
「……」


寒いに決まってる。だけどそんなことはどうだっていい。
貴方には関係ない。余計なお世話だと思った。
白々しい質問をしてくる青年は、邪魔をするなと言った私の声など聴こえていないみたいだ。


「風邪ひいちゃうよ」
「、えっ……！」


突如身体に訪れた浮遊感を理解するよりもはやく、
青年の横顔が視界の真ん中に映り込む。
器用に傘を肩に掛けて落とさないようにバランスを取りながら、ざばりと川から引き上げられて、すぐ近くの大きな橋の下まで運ばれた。

いくら私がこの青年より体格が劣っていたとしても、水に濡れて重さを増した衣類を纏い、しかも脱力している人間を、彼は軽々と持ち上げてしまった。

背中と膝裏を支える腕が温かくて、戸惑ってしまう。


「おろすよ」


青年はわざわざそう声をかけてから、私を乾いた地面にゆっくりと下ろした。
髪や服からポタポタと垂れた雫がみるみる地面にシミをつくって、あっという間に小さな水たまりが出来た。



私の目の前にしゃがみ込んでこちらを見つめる青年は、全くこの場から動く気配がない。


何かを言いたいことがあるという風でもなく、むしろ私からの発言を待っているかの様に。
ただじいっと、その双眼に訳も分からずびしょ濡れのみすぼらしい女を映しているだけ。
ひどく居心地が悪かった。




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