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｢う……今日は風強いな。夏服だと少し肌寒い｣
｢奇遇ね、私もよ。帰ってすぐ通話繋いだから、私制服のままなのよ。あーあ、こういう時にどこでもドアとか瞬間移動能力があったら石上の所へブランケットを届けられるのにね｣
瞬間移動なんて事が出来たら、僕は毎朝君に会いに行く。
毎朝毎朝、一日も欠かさず会いに行って甲斐とおはようって言い合う。今度は瞬間移動なんてせずに、二人で歩いて学校へ行くんだ。
｢あっ、夏の大三角形！見つけたっ、私天才かも！｣
────────好きだ。改めて認識する。
目で見えないからこそ、全ての神経が聴覚に集中する。
甲斐の艶やかな吐息、とろけそうな甘い声。全部に嫌に興奮してしまって、なんだかまるで……すぐ隣で月を見てるみたいだ。
きっと甲斐は、そのうるっとした唇で好きな奴にでも美しい言葉を紡ぐんだ。
濡れた宝石みたいな瞳で、そいつを見つめるんだ。
細い
悔しいなぁ、僕は甲斐の特別な人にはなれない。
甲斐はいつだって僕の一番で、いつだって僕の暗い世界を照らしてくれる太陽なのに。
僕が世界で一番甲斐の事を想っていて、誰にも負ける筈なんてないのに。
もしも僕が甲斐を好く事が許されるならば、僕は甲斐と色んな事がしたい。
毎日一緒に帰りたいし、クラスメイトの視線を気にする事無く堂々と手を繋いで歩きたい。
皆の前でキスだってして甲斐は僕の女なんだぞって見せびらかしてやりたいし、それ以上の事だって毎晩やりたい。
でもそれは、彼女が認めた男にしか許されない行為だから。
結局僕は、太陽に恋い焦がれる莫迦な男でしかないから。
こうして一緒に月を眺める位しか、天には赦されないのだろう。
｢ん……ふぁあ｣
画面の向こうで、甲斐が可愛らしくあくびをした。
こてん、と突っ伏す様が目に浮かぶようだ。
やがて穏やかな寝息が聞こえ始め、甲斐が寝落ちたらしい事が分かる。
｢……おやすみ、A｣
付き合ってもいない君の下の名前を呼ぶのはこれっきりにする。
だから、もう少しだけ。
あとほんの少し、声を聴かせて。
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作者名：白米 | 作者ホームページ：http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/13ec41960d1/
作成日時：2022年6月27日 0時
