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｢今日は先輩に言って休ませて貰うよ｣
｢え、でも石上忙しいんじゃ｣
｢はは、引き止めたのどっちだよ。良いよ。誕生日なんだろ？今日位わがまま言ってくれて良いよ。
誕生日おめでとう、甲斐｣
本当に優しい奴だな、将来悪い大人に騙されないか心配だ。
あ、そうか。僕が守れば良いのか。うん、それが一番手っ取り早いな。
｢ありがとう、石上。石上の誕生日はいつ？祝わせてよ｣
｢三月三日のひな祭りだよ。今日は人の事気にしてないで自分だけ優先してろ｣
どこまでも利他主義な女だ……今まで甘やかされた事が無いんじゃないかと本気で心配になる位だ。
｢行こっ、石上｣
｢うわバカ、引っ張るなっ｣
｢今日の夜はね、お父さんもお母さんも出張から早く帰ってきてくれるの！四人で美味しい物を食べに行くのよ、お寿司か蟹料理が良いなぁ……｣
きらきらした瞳で話す甲斐。心の底から家族が好きらしい。
うちは放任だし、停学期間とかは関係なく昔から父は僕に無関心だ。母親もここ最近ほとんど話していない。唯一気を遣う事なく雑談が出来る兄貴も、まだ壁を取っ払えていない。
だから、甲斐の家みたいに物理的距離が遠くても仲が良い家族とか、ここに帰りたいって思えるような家っていうのは……
少し、羨ましい。
｢……大好きなんだな、親御さんが｣
｢……？石上は違うの？｣
悪意の感じられないその発言が、僕の惨めさを引き立てる。
そうだよな。普通は、親の事……好きだよな。
いくら家族仲が上手く行ってないからって、親の事に無関心になるのは違うよな。いくら親父が僕の事に無頓着でも。
｢私のお母さんはね、すっごく格好良いのよ！大学で先生をしてるんだけど、どんなに難しい事を訊いてもスパッと答えちゃうの！『論理で解る事以外はママの主観よ。宛にしないで頂戴』って、眼鏡をクイッとして頭を撫でながら言ってくれるの！｣
ああー、ツンデレっぽい言い回しが甲斐のお母さんだな……
｢お父さんも素敵よ、人々に安心して帰りたいと思える家を提供するのが目的の会社を立ち上げてね、すっごく頑張ってるの！……私より、仕事を優先する事が多いけど｣
……いくら高校生でも、いくら学年トップでも、甲斐だって子供だよな。
お兄さんからも耐えきれない期待をかけられて、この子は一体今まで誰に甘える事が出来たのだろう。
親に甘えたいと思った事が無いから、僕には分からないけど。
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作者名：白米 | 作者ホームページ：http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/13ec41960d1/
作成日時：2022年6月27日 0時
