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「考えれば変だよな、この関係」
「そうね、日常的にキスする友達なんて日本で私たちだけなんじゃないかしら」
でもやめたくない。この関係がずっと続けば良いなんて思ってしまう。
そんな事認められる筈ないし、今はどうか知らないが甲斐にだっていつか好きな人が出来るだろう。
そしたら、この珍妙な日々は終わり。
甲斐にあちこち連れ回される事も、振り回されてくたくたになって帰る事も無くなる。突然勘違いするような一言を言われてあたふたする事も無くなる。
僕はもう予備校の自習室を予約する事は無いし、午後10時過ぎに今日も勉強お疲れ様、とキスする事も無い。
勿論二人で出かける事も、学校で密会してバレないようにイチャつく事も、甲斐の言動に「好き」を実感する事も許されない。
甲斐がこうやって、キスをせがむ事も無くなるのだ。
大っ嫌いから始まった関係が、今や絶対に壊れて欲しくない大切な物になっている。
こんな事、半年前の僕が一体どうして予想出来るだろうか。
「苗字で呼んじゃダメなんだっけ?甲斐さん」
学年のマドンナを名前で呼ぶ事になるなんて、どんな奇跡があって想像出来るだろう。
「どっちでも良いわ。分かりやすいのは名前ね……貴方が良いなら、呼び捨てでも構わない」
前まで自分の事を蛇蝎の如く嫌っていた甲斐が、僕にこんな優しい言葉と眼差しを向けるなんて。
「じゃあ、A」
それに僕が案外簡単に応じてしまう事なんて、半年前は夢にも思わなかったのに。
それが現実になってるんだから、現実は小説より奇なりって事だよな。
「A」
こうやって下の名前で呼びながらイチャつく、なんて恋人同士みたいな事出来るのはあと少しかもしれないんだし、今を思い切り楽しんでしまおう。
「……ゆ、優……くん……?」
僕の名前を恥じらって呼ぶ甲斐。可愛い、まるで天使みたいだ。
「呼び捨てで良いよ」
甲斐が可愛らしく呼んでくれるなら、昔から女っぽいとからかわれてきたこの名前もなんだか好きになれそうだ。
好きだ、愛してる、キスもキス以上の事もしたい。
厭らしい欲望が溢れるように脳の奥から出てきて、気が狂いそうだ。
もう良いや、甲斐が嫌がる様子も無いし、襲っちゃおう。
時刻は十二時半を少し過ぎた頃。丁度良い時間だ。
「あの……さ、ゆ……優。
今、二人きりだから訊きたいんだけど。
中等部の頃の事、貴方……何か隠してる?」
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作者名:白米 | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/13ec41960d1/
作成日時:2022年6月27日 0時