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「あ、石上。あっちでイルカのショーやってるみたいよ。行ってみない?」
「ああ、そういえばここの水族館のショーは凄いらしいな。うん、行こう」
甲斐はその華奢な指を絡ませ、僕の腕を引く。
本当、付き合ってもない男と手を繋ぐとか倫理観壊れちゃったのか?前々から思ってるけど、距離の詰め方が莫迦なんじゃ。
いや、もしかしたら陽キャの間ではこれ位が普通なのかもしれない。
だって僕は陰キャの権化みたいな人間だから、一軍の神々の事なんて何一つ分からない。
甲斐はこうやって、いつも他の奴と手を……
うっ、吐き気がする。想像したくない。
甲斐が笑いかけるのが僕だけだったら良かったのに。なんて、気持ち悪い妄想をしてしまう。
甲斐が立ち止まり、ぽつりと呟いた。
「石上の彼女が羨ましい」
「……っ、え、ど、どうした急に」
カオナシみたいに母音を大量生産しながら、僕は脳を必死に回して処理を続ける。
僕の?彼女が?
羨ましい、だって。
いや、何かの聞き間違いかもしれない。あーやだな、僕はまた自分の都合の良いように解釈をして……
傷つくのは分かってるんだから、変な期待はしないって決めてるのに。
なのに。
潤んだ甲斐の瞳がそれを邪魔する。しっとりと僕の名を呼ぶその声が、僕を掻き立てる。
「毎朝石上に撫でて貰えておはようって言って貰えて、毎日石上と帰って石上に今日も頑張ったねって褒めて貰えて……私もそういう事して欲しい、リア充が羨ましい」
「あー、そういう……じゃあなるか?リア充」
僕だったら毎朝君の為に早起きするし、毎日毎日ドロドロに褒め殺してやる。
万一だって僕が甲斐に釣り合う筈なんて無いけど、甲斐を彼女ですって紹介出来る奴が羨ましいな。
「……ぇ、っ」
だから、そんな赤くなるな。期待してしまうから。
そんな可愛い声で僕の耳を撫でるな。"ワンチャン"、とか非現実的な
「冗談だってば。そんな赤くなるなよ……変な勘違いする」
本当に、ヤバい。
マジの、ガチで。変な勘違いしそうだ。
恋の力ヤバい、凄い。甲斐に励まされたらなんだって出来そうな気がする。
話しかけられる度に、頭、クラクラしてヤバい。
毎日、毎分、毎秒。
危うく甲斐に、好きだって言ってしまいそうだ。
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作者名:白米 | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/13ec41960d1/
作成日時:2022年6月27日 0時