帰国子女様は距離を詰めたい【石上優】【かぐや様は告らせたい】 (ページ32)

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thirtyone ページ32

｢え……あ、え……？｣

Aに、キス……された……？

夢か？これは……夢、なのか。

いや、実際ふにっとした感触はあった。これは現実……

じゃあなんで。なんでAは僕にキスなんか……

訊こうにも、既にAはすぅすぅと寝息をたて始めている。こんな時に起こすのは野暮というものだろう。

顔が熱い。予想外の出来事に心臓が早鐘を打っている。

治まれ、治まれったら。こんなにずっと顔が赤いままだと、まるで僕がAの事好きみたいじゃないか。そんな事有り得る筈無いのに。

僕がAの事好きなんて、あって良い筈が無いのに。

望みの無い恋だけは絶対にしたくない。下手に期待して手酷く裏切られるのはごめんだ。

僕とAじゃ釣り合わない。

クラスの中心でいつもニコニコと愛想良くしてて、異性にも同性にもモテてるAと、教室の隅でゲームしていつも無愛想で無表情で、近づいたら泣いて逃げられるかキツく睨まれる僕。

客観的に見ても主観的に見ても釣り合わない。どう考えたって僕の方が諦めるべきだ。

だから、絶対にあっちゃいけない。想っちゃいけないのに。

｢なんッで、治まらねぇんだよ……｣

たかがキスじゃないか。恋のABCのA、初歩中の初歩。

たかが異性からのキスで、なんでこんなに僕は……！

顔は熱いし心臓もうるさい。これだから異性は苦手なんだ。

……異性。

Aを異性と認識してしまった。しないようにしてたのに。一度異性だと、女の子だと意識してしまえば僕は負けてしまうから。

くそ……消えろ、消えろ。頼むから消えてくれ。僕の中に巣食うこの想いを信じたくない。

握りしめた掌に爪が食い込んで、血が滲んできた。

僕はAの事なんか好きじゃない。Aはただの友達。普通のクラスメイト、役員仲間。

キスされたからって意識したりなんてしない。女の子だと思ったりなんてしない。

僕はAの事なんて全然、何にも思ってない。

Aが起きて、また変な事をされないうちに帰ろう。

プリントとノートだけ置いて、親御さんに適当に挨拶して……帰って寝よう。

今日はお見舞いに来たんじゃなくて、プリントを届けに来ただけ。少し長居し過ぎたんだ。

胸の奥で蠢く感情を無理矢理押さえつけて、僕はAの部屋を出た。