石上優は堪えたい ページ17
｢えっ、あっ、優少ねっ、おてて……｣
『っ！すみません、思わず……』
自分の軽率な行動を恥じながら、先輩の小さな手を離す。
｢あ、いや、その…離さなくても、いい……｣
今度はA先輩から手を繋いできた。
何この生き物……くそ可愛い……
バレないように振り返ったら顔赤いしもじもじしてるし、無理……
『あっ、今日東高の文化祭みたいで！行きませんか？』
出来ればA先輩と行きたいなぁなんて考えながらいつも素通りしていた看板が役に立った。
｢うん！そうだね、近いうちに北高の文化祭もあるから行かないか？｣
『勿論です。』
やっぱり、美人だなぁ。
ちょっと前まで遠い雲の上みたいな存在だった人が、今この場に居て自分と手を繋いでいる。
自分を好いてくれている。
そんな実感が今更ながら湧いてきて、僕はむず痒くて堪らなくなった。
好きだ。
この柔くて可愛らしい手が、ぱっちりと開いたつり目が、絹糸にも劣らない美しさの髪が、好きだ。
こんなに好きな気持ちが溢れ出て止まらないのに。
いざ言葉にしようとすると、吃ってしまう自分が情けない。
そんな弱くて惨めでかっこ悪い僕を、どうしてA先輩は好きでいてくれる？
どうして僕は先輩の好きな人という立ち位置にいる事が出来る？
『……A先輩は、僕の事好きですか？』
｢えっ？あっ……うん、好き…だよ。｣
『僕の石上って苗字じゃなくて、僕が好きですか？
もしも僕が違う苗字でも、A先輩は優として僕を見てくれますか？』
まくし立てて、慌てて口を噤んだ。
何言ってんだ僕は。
急にこんな質問攻めにしたら、引かれるに決まってる。
『…あの、すみません。なんか疑心暗鬼になってたみたいで…
A先輩と付き合えるとか、マジ信じられなくて……
その、今の質問は忘れ』
｢好き、になると思うよ。｣
凛とした声が返ってきて、再び僕は口を閉じた。
｢確かに私が優少年の事を気になり始めたのは苗字がきっかけだ。
でも、優少年がたとえどんな苗字でも、私は…多分、優少年の事が好きだと思う。｣
思ったよりはっきりした返事だった。
それは、本当にA先輩の本心だったのだと思う。
けれど、
『……行きましょう。東高こっちですから。』
その言葉を素直に受け止められない僕はやっぱりひねくれている。
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作者名：白米 | 作者ホームページ：http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/13ec41960d1/
作成日時：2021年3月15日 16時
