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｢お前も、中学の時に何かあったのか？｣
お前"も"、ねぇ……
｢石上もあったの？……まあ、訊かなくても荻野の事は知ってるけど。貴方が隠してる事教えてくれたら、まあ教えなくもない｣
｢……それは、ちょっと｣
｢そんなに隠したい事って一体何なの？まさか、ストーカーなんてしてません、僕は一切無実です……とまでは行かないわよね｣
｢無実は言い過ぎかな、実際殴ったのは事実だし｣
……まあ、石上だったら口は堅いだろうし、言ってもいいかな。
別に隠してる事でも無いから、言いふらしてくれても構わないけれど。
｢私ね、中学の時は吹奏楽部に入ってたの。一応、パートリーダー……トランペット奏者をまとめる立場に居てね。
ただ、なんていうのかな……その時はお兄さんの事とか、成績が伸び悩んでたのもあって自暴自棄になってて。個人練の時は無茶苦茶な吹き方してたの｣
｢ある時気づいて、やばって思っちゃったわ。だって、おかしいでしょ？トランペット奏者の癖に、
主旋律に違和感ばかり覚えるようになっちゃって｣
｢この音楽何か違う、ズレてる。聴いた事も無いのにそういうのがあった。
例えば、シラソーって音をシの音を半音下げたりするのがしっくり来たりね。あれ、なんだったんだろうって今でも思うわ｣
｢そんな事気にせず弾いたら良いんでしょうけど、その時の私は大分音楽に本気だったからどうしても気になっちゃって｣
｢この音もあの音も違う、って自分の思う通りに弾いたらまったく違う音楽になっちゃった。あの頃は周りがどんどん上達してるのが目に見えて分かって、自分に才能なんてない現実を世界に叩きつけられたみたいで、凄く嫌だった｣
｢……それで、やめたのか｣
｢そうよ。環境の移り変わりとの兼ね合いもあって、中学卒業する頃にはすっぱりやめたわ。楽器屋にあの子を売る時涙が一滴も出なかったから、ああ、あんまり私って吹奏楽に情熱注いでなかったんだって、ちょっとがっかりもしたけとね｣
｢でも私はこれで良いと思ってる。だってあのままトランペットを続けてたら、いつか壊れてたと思うから。これもひとつの選択よね｣
諦めた訳じゃない。私は選んだだけだ、もうやらない道を。
むしろ私は前に進んだ。
トランペットばかりに盲目にならずに、勉強や運動、あと……恋に目を向けたりして。
だって横を向いたら、こんな格好良い人が居るんだもの。
顔上げて前向かなきゃ、損よね。
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作者名：白米 | 作者ホームページ：http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/13ec41960d1/
作成日時：2022年5月24日 21時
