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｢────────はっ、何回目だろうな、この体勢｣
｢ええ、慣れすら感じるわ｣
私を睨めつける狼みたいな視線にも、もう幾分か慣れた。
｢考えれば変だよな、この関係｣
｢そうね、日常的にキスする友達なんて日本で私たちだけなんじゃないかしら｣
でも、やめるなんて言わないで欲しい。
いつの間にか、この関係が私の心の拠り所になっている。
私は石上とのキスをご褒美に、学校を頑張れる。
｢苗字で呼んじゃダメなんだっけ？甲斐さん｣
｢どっちでも良いわ。分かりやすいのは名前ね……貴方が良いなら、呼び捨てでも構わない｣
｢じゃあ、A｣
やだ、最初から呼び捨てっ！？
やっぱり最初はこう、ちゃん付けとかさん付けとか……
でも呼び捨ての中に潜む石上の無意識な男らしさ、凄く好きだわ……良い……すっごく良い……
｢A……｣
な、名前呼びでキスまでだなんて……！！もう付き合ってないの！？付き合ってるでしょこれ！！！
その気になればもう最後まで行っちゃうんじゃないの！？えっ、あれ！？物事が上手く運びすぎてない！？
｢……ゆ、優……くん……？｣
きゃー！名前で呼んじゃった！優くんって！くん付けで呼んじゃった！
｢はは、呼び捨てで良いよ｣
なんて優しい瞳……
石上の事を知れば知る程、疑問は自分の中に積もってく。
本当に荻野の事を殴ったの？こんなに優しい石上が？
本当に大友京子の事をストーキングしてたの？
普段温厚な人程怒らせると怖い……でも、普段とても温厚な人が怒るには相応の理由がある。
石上にも、何かやむを得ない事情があったのだろうか。
石上のラピスラズリみたいな瞳の奥には、いつも深く暗い闇が見え隠れしてて。
長く伸ばした前髪もきっと、周囲への恐怖の象徴なのだろう。
｢あの……さ、ゆ……優。
今、二人きりだから訊きたいんだけど。
中等部の頃の事、貴方……何か隠してる？｣
何秒間か、だったのだろう。けれどそれは何時間にも思えるような、重い沈黙だった。
｢……バレた？
ごめん……A。まだ、言うには時間がかかる。
少なくとも僕がこの呼び方に慣れないうちは、まだ｣
石上……いいや、優が私に隠している事。
とても、とても気になるけれど。
彼がどうしても言いたくないというのなら、無理に急かすのが友達ではない。
優が許せる仲になるまで私は待てる。
私は我慢が出来る、良い子なのだ。
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作者名：白米 | 作者ホームページ：http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/13ec41960d1/
作成日時：2022年5月24日 21時
