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栞「いいと思う」
コーヒーを混ぜていた栞さんが、
カタン、とソーサーにスプーンを置いた
「.......?」
栞「忘れようとすればするほど、Aちゃんが辛いだけだよ」
「.....」
栞「私もそうだったからわかる」
栞さんのその一言が、
どんなに悲しくてどんなに重たい言葉か
私には奥の奥まで理解することはきっとできない
私が抱えてるものと栞さんが抱えてるものとでは、あまりに違いすぎるから
「....栞さんは旦那さんのことどんな風に想ってますか？」
栞さんの旦那さんは、駿くんが生まれてすぐに交通事故で亡くなった
会えるのに会えない関係と
もう消して会うことはできない関係
決して会えないって、どういう気持ちなんだろう
まだどこかで会えるかもしれない、なんて
迎えに来てくれる、なんてどこかで抱いてる淡い期待
もう会えない可能性の方がはるかに大きいけど、
0.0000001%でも会える可能性が残っている私と、どんなに願っても最愛の人に会えない栞さんとでは
きっと抱えてる悲しみの大きさには雲泥の差がある
栞「ある人にね、言われたの」
「.....?」
栞「あなたは、旦那のことだけを想っていてくださいって」
「........」
栞「これから先も、余所見しないで誰も見ないで、旦那のことだけを想ってほしいって」
彼のことだけ......
栞「私ね、悪い大人なの」
「....え？」
栞「Aちゃんに憧れられるような人じゃないの」
「.......」
栞「旦那は確かに亡くなったけど、私は今でも彼の妻。誰かをこの先愛するなんてあるわけない、会っちゃいけないと思ってる。」
「......好きな人、いるんですか？」
こんなこと栞さんに言わせるの、あまりにも酷だと思った
栞「安心する、って思ったの。この人といると悲しみが和らぐって。それが恋愛感情なのかはわからない」
「......」
栞「...ね？駄目な大人でしょ」
そう言って笑う栞さんの笑顔があまりにも悲しくて儚くて、
「...私、栞さんが大好きです」
ちっぽけな私には、こんなことしか彼女に言うことができなかった
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作者名：ちゃろぱ | 作成日時：2019年2月19日 20時
