男の娘審神者の受難。【其ノ二】 (ページ40)

今日:18 hit、昨日:2 hit、合計:47,283 hit

第57話ページ40

「 ……Aさん、いいの？この人政府の高官だけど…… 」

僕に気を許しているとはいえ、他の人間に対してはまだ信じられないのか、乱がそう耳打ちしてきた。

「まあ、この人は大丈夫でしょ」

乱に対して小声で返せば、乱は「Aさんがそう言うならいいけど……」と素直に引き下がった。
乱の言うこともわかると言えば分かるのだが、皇さんに至っては大丈夫だと勘が働いていた。

「 ……けど、わかんないな。どうしてそう思ったの？」

乱から皇さんに視線を移し、僕は皇さんにそう問う。それだけは、いくら考えても答えにたどり着けないのだ。

「わたし、今まで……、光藤さんとこうしてお話するまで、家族以外に砕けた口調で話されたことがなかったんです。みんな、わたしが皇家の人間だからと、敬語で一歩線を引いていましたから」

そんな事あるものなのか、と一瞬驚くが、僕は先程皇さんから聞いた言葉を思い出す。

──名門皇家の嫡女というだけで今の立場に置かれた。

と皇さんは先程少し話していたが、どうやらこの2205年の世界では、少なくとも時の政府の中では、家柄というものが非常に強く影響を持つらしい。思えば僕が政府高官である彼女と話しているのも、仁瀬がそれなりに名の知れた家の出だったからだ。
平成の世ではそんなものほとんど無かったと記憶しているが、SF的な科学が発展している中、どうしてそんな所だけ妙に古臭いのだろうか。

……しかし、なにはともあれ理由がわかったので良しとする。

「けど良く不快に思わなかったね？」

「？何がですか？」

「初対面の、自分よりずっと下の立場の人に敬語無しに話されるんだもん。自分で言うのはアレだけど、僕結構失礼な奴じゃない？」

僕がそう言えば、皇さんは顎に手を当て少し考える。

「そう、ですね……。確かに一般的にはそうなのかもしれません。けれど、わたしにとっては新鮮でしたし、嬉しかったので」

なるほど。……一般的には理解されないだろうが、彼女の言うこともまあわかる様な気がしないでもない。
そもそも、僕が敬語をあまり使わないのだって、変わり者の両親の教育方針が影響しているわけだし。

「 ……なるほどね。じゃあ次は"友達として"会おうか。──ね、鈴蘭さん」

その言葉に明るい笑顔を浮かべる彼女は、やっぱり少しだけ幼い感じがする。

その後、連絡先だけ交換して、僕と乱は広い応接室を後にしたのだった。