男の娘審神者の受難。【其ノ二】 (ページ23)

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第44話ページ23

「……わあ、随分と懐かれたねぇ」

「懐かれるのは嫌いじゃないから嬉しいけどね。それはそうとおはよう髭切」

開口一番、おはようより先に、炊事場に訪れた髭切は呑気に告げる。僕がそれに答えれば、髭切は「おはよう」と目を細めた。

時刻は午前7時。外が白んで久しいこの時間、僕は昨日……いや、一昨日か。と同じく朝食を作るために炊事場に居た。僕が一昨日にした食料についての申請はまだ通ってないらしいので、メニューは前と同じく、おにぎりと漬物しかないのだけど。

が、一昨日とは大きく違う点がひとつ。

「あ、髭切さんおはよう」

「やあ、おはよう。……えっと、」

「乱だよ！乱藤四郎！！」

「あぁ、そうだったそうだった」

相変わらず名前を忘れる髭切に軽く翻弄されているのは、乱だ。
まだ日の昇らない内に話した後も、割と長い時間ボロボロ泣いていたが、今はすっかりその涙も乾き、早々に目を冷やしたおかげで目の腫れもなく、泣いた後も見られない。

「で、二人は何してるの？朝餉の準備中？」

「そうだよ。材料がないからまたおにぎりぐらいしか作れないけどね」

「僕はそのお手伝いだよー」

髭切の問いかけにそう答えれば、乱もそれに続くように答え、それを聞きながら出来上がったおにぎりを大皿の上に置く。

「畑もあの有様だし、お金もそんなある訳じゃないから、食料については役人さんにお願いしたけど、色々あったからもう暫くはおにぎりだけかもね」

「僕はAさんのおにぎり好きだから、別にそれでもいいよ？」

「それはありがと」

そう話している間も手は止めない。
人の身を得てからの時間が髭切よりも長い為か、それともただただ器用なのかは知らないが、乱は僕が少し教えると、おにぎりをすぐ作れるようになった。
また乱の性格についても分かったことがひとつ。彼は至って素直らしく、この手伝いをするのも二つ返事で承諾してくれた。お陰で今日は前回よりも時間がかからず、今僕が握っているおにぎりが握り終わったらもう終わりだ。

「あ、みーくん、作り終わったんならそれ持っていくよ」

「あ、ありがとう。じゃあ二人ともそれ持って行って食べていいよ。片付けは僕がしとくから」

僕が最後のおにぎりを大皿に置いたのを確認して発言した髭切にそう言いつつ、その場の片付けを始める。
二人はそれぞれ了承の旨の返事をして、炊事場から出ていった。