男の娘審神者の受難。【其ノ二】 (ページ22)

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第43話ページ22

その綺麗な青色の瞳は、確かに僕を捉えて、先程まで頑なに逸らしていたのが嘘のようだった。

「……仲間や兄弟が折られて、自分自身も傷付けられて、正直人間に失望してた。こんな事なら人の身なんて与えないで欲しかったって、こんな事ならただの付喪神のままが良かったって、一層の事折れてしまいたいって、何回も、何回も思った」

言葉を紡いでいくうちに、その折れた仲間や兄弟のことを思い出したのか、不安が勝っているのか、或いは両方なのか、その青が微かに潤み始めていく。
やがて、それは次の言葉を紡ぐと同時に、頬に透明な一線を引く。

「けど、あなたにを見ているうちに、あなたは今までの人間とは違うって分かった。あなたが作ってくれたおにぎりを食べて、美味しいとか不味いとかそんなのじゃなくて、すごく温かい気持ちになって……」

そこまで言うと、乱は強く握っていたスカートの裾を、さらに強く握った。
それに比例するように、涙の量も増えているように見えた。

「そんな気持ちを知ったら、人の身も悪くないって思ったし、そんな気持ちにさせてくれた人を、……光藤Aっていう1人の人間を、信じて付いて行きたいって思ったんだ」

どんなに顔が涙に濡れても僕から目線をそらさない彼は、ぐずぐずと鼻を鳴らしていた。
僕は彼に近付いて、その涙を両の親指で拭う。本当はハンカチか何か渡すのがいいのだろうけど、生憎と持ち合わせがない。
彼に触れた手が拒まれることは無かった。

「そっか。……それが、君の本音で間違いない？」

僕の問いに、乱は小さく頷いた。
それが嘘だと疑う理由はない。

「なら、僕もちゃんと答えなきゃね」

そう言って、少し笑ってみせる。乱は、静かに僕の答えを待っていた。

「まず、乱の本音が聞けて、あまつさえ僕について行きたいなんて言ってくれて、凄く嬉しいよ」

「烏滸がましいとか、思わないの？僕は、あなたに刀を向けたのに」

「あはは……、山姥切と同じこと言うんだね。そんなこと思うわけないのにさ」

「……そういうものなの？」

「少なくとも僕はね」

乱の言葉に思わず苦笑する。やはり、彼らはとても優しい付喪神たちなのだ。
さて、それはさて置いてちゃんと僕も答えを言わなくては。

「まあ、何にせよ僕が言えることは1つだ。君が僕を信じてくれるなら、僕も君を信じるよ」

少し驚いたような乱の目が、改めて僕を捉える。

「これから宜しくね、乱」