男の娘審神者の受難。【其ノ二】 (ページ19)

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ぬくもりページ19

主として認められないなら、そのままでいい。

そう言って静かに笑いかけてくる光藤は、それを妥協案として挙げたわけでも、俺という刀を理解するのを諦めたわけでも無さそうだった。

初めて彼を見た時、今まで俺達を散々な目に遭わせてきた人間達と同じだと思って刀を向けた。
が、実際は俺が思ったような人間では無かった。
何度も敵意を向けられ、殺気を浴びても尚、ここから逃げ出す素振りは一切見せず、あの前の審神者を匂わせる男と対峙した時でさえ、自分はいつでも逃げれただろうに、術で身動きの取れなくなった髭切を置いて逃げることはしなかった。

だから、この人間であれば、信じてもいいのかもしれない。自分の主として、慕っていいのかもしれない。
そう思っている筈なのに。決してそれが、上辺だけのものじゃないはずなのに。
どうしてこうも恐ろしくなるのだろうか。

「……だが、俺は、あんたに刀を向けた」

「うん」

「不躾な、態度もとった」

「うん」

俺の言葉に、光藤は肯定するわけでも否定する訳でもなく、静かに相槌をうつ。

「……なのに、何故そんなことが言える。烏滸がましいと思わないのか」

信用出来ないと、何度彼に言ったことか分からない。
そう思った故の問いだったが、光藤は俺の言葉に一瞬意外そうな顔をして、仕方なさそうに息を吐いた。

「思うわけないでしょ。むしろ僕は嬉しいくらいなのに」

何を当たり前のことを。
そう言うように、彼は呆れを混じらせて笑う。

「……嬉しい？」

「そう。たとえ"主"として認めてくれてなくても、"僕"を認めてくれた事が単純に嬉しいんだ」

「……」

「それに、刀を向けた事を気にしてるみたいだけどさ、それ以上に、山姥切は僕を助けてくれたでしょ？」

なんと言えばいいのか分からず、言葉を失う俺に、光藤はふわりと笑いかけてくる。

「助けてくれたこともそうだけどさ、僕を認めてくれてありがとう。それだけで、充分だから」

──瞬間、じわりと視界が滲むと共に、頬に何かが伝う。

光藤はそんな俺を見ては、困ったように俺の頭を撫で、親指でそれを拭う。
その手は、ひどく温かかった。