男の娘審神者の受難。【其ノ二】 (ページ14)

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信頼と不信ページ14

「──あ、立ち上がらないでね、また何かされると面倒だ」

髭切は立ち上がろうとする男を抑えながら、冷たくそう告げる。
背中を抑えたことで痛みが走ったのか、男は小さく呻く。

「う、……はな、せ……っ！」

「離したら何するか分からないからねぇ」

髭切の口調は柔らかいものの、やはり声のその奥には冷たさを含んていた。光藤が殺すなと髭切に言っていなければ、確実に髭切はこの男の首を跳ねていただろう。
その命のお陰か、今も髭切は殺意を発していない。
そうして抑えていると、男は観念したのか大人しくなった。

「兄者！山姥切！」

丁度男が大人しくなるのと同じタイミングで、奥で控えていた膝丸と乱がこちらに駆け寄ってくる。
二人は、俺に抱えられた光藤を見て一瞬動きを止めるが、すぐに髭切と男の方へ視線を移した。

「兄者、体に何か問題は無いのか？」

「うん、あの術は身動きが取れなくなるだけみたいだから、何も問題ないよ。それより何か縛るものないかな？」

「縛るもの？」

そう問い返しつつ、膝丸は髭切に押さえつけられている男に目線を下げる。
男は抵抗はしていないものの、こちらを恨めしげに睨んでいた。

「うん。下手に斬ると殺しちゃいそうで怖くてさ」

「？そんなもの、縛らずとも殺せばよいだろう」

至極当然の如く答える膝丸に、髭切は困ったように笑った。

「僕も本当ならそうしたいけど、生憎斬ってもいいけど殺すなって命を貰っちゃったからねぇ」

その言葉を聞いた途端、膝丸は眉をひそめる。

「兄者、そんなに、その人間が信じられるのか？」

「まぁね。少なくとも、僕はそう判断したよ」

「こんな事で気を失うような軟弱な奴が、か？」

「うん、そうだよ。かなり気を張ってたみたいだし、疲れちゃったんだろうね」

髭切は困ったような笑みはそのままで答える。が、膝丸の表情は納得出来ないと言わんばかりに険しい。

俺も光藤のことはよく知らない。
ただ、これまで俺達と接してきた人間とは違う、という確信が持てたぐらいだ。
そして髭切はそれを信頼出来ると取った、ただ、それだけの話だろう。

「まあでも、お前は昨日のこの子の言動を見てないから仕方ないのかもね」

「兄者、それは一体──」

「光藤さん！」

膝丸が髭切に問おうとした時、光藤を呼ぶ声がそれを遮る。
その方向を見てみれば、人間が二人、こちらに向かって走ってきていた。