【SLAM DUNK】カフネ前編 (ページ44)

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42.冬の話ページ44

なりたい俺の姿が具体的に見えてきた

確実に1歩ずつ進むんだ

スタミナが足りなくても

必ず猛スピードで辿り着く

Aの笑い声が

Aが俺を真っ直ぐ見る瞳が

俺を内側から押してくれるようにさえ感じていた

冬、年が明けた。

約束していたバッティングセンターに来た。

『寿くん。上手い。』

今日もAはクスクス笑ってた。

「だろ？チョロいね。」

『ここ、他にもスポーツできるみたいだよ。
　やってみよ？』

「おう。」

Aは球技はある程度できることが分かった。
前に海に誘ってきたから、泳げるか聞いたら、5メートルくらいなら、って言ってた。
へえ。
まっ、そのうち。

帰り道、少し疲れた俺をよそに、Aは俺の影を踏んでクスクス笑って遊んでた。

陰踏み。

負けてたまるか。

冬の夕暮れ時を子供みたいに遊んだ。

寿くんと私の足音が重なる瞬間。

楽しくて。

たまらない。

いつの間にか、日が暮れて影がなくなってしまって、私の大好きな大きな手を繋いで進んだ。

「もう、つかれたのー。」

すれ違う、小さい子が父親に背負られて、母親がその横を歩く姿をAは、朗らかな顔で見ていた。

　

ないものねだり

そういや前の俺はしてたな。

お前のないものねだりしないとこ見習わないとな。

『寿くん。おんぶ。』

「歩け歩け。」

お前はさ、今あるもんを大事にできるよな。
今日くらいは、いっかな。

「ほれ。」

Aは軽くて、頼りない重さの生き物だと思った。
どんなに見習うところがあっても
所詮は女の重さと女の力だ。

「飯でも食って帰るかー？」

『うち、寄ってかない？
　お兄ちゃんも寿くんに会いたいって。』

Aの手料理は美味かった。

兄ちゃんに誘われて、2人でバスケもした。
お留守番ー、と言われ、少し頬を膨らませていた。

兄ちゃんのドリブルのリズムや、シュートを打つタイミング、視線の動かし方、どこかAと被る。
本当に兄妹でやってきたんだ。

「楽しかった。バスケセンスすごいな。またやろー。」

「はい。ありがとうございます。」

「面倒なところもあるけど、妹よろしくね。」
「百万回面倒だと思ったことあるけど。
　俺にとってはただの可愛い妹だからさ。」

「はい。」

なりたい俺になって、Aを守っていきたいと思った日。

そんな冬の日だ。