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語尾を伸ばす飄々とした話し方をする先輩が踏み鋤を持ちながら此方へ向かってくる。
「遅れてごめん。君は2年い組能勢久作くんだっけ」
この人は天才トラパーと名高い綾部喜八郎先輩。
前に名乗ったはずなのに確認するあたり、この人は余程俺に興味がないのだ。
「はい。先日のお礼を言いたくて」
「良いのに。僕は黙ってても幾らでも穴を掘るよ」
そう言いながらも綾部先輩は足元にある土を踏み鋤で弄り出す。
俺と話しているのに視線はあっちこっち動いて落ち着かない。綾部先輩が先輩じゃなく同級生か後輩だったなら今すぐ怒声を浴びせていたと思う。
「ここに埋めたんだっけ」
黙っていると先輩は俺の腕を取って言った。
「なんで殺したの」
怒りを含んだ声に一歩後ずさると先輩は一歩こちらに距離を詰める。あまりの迫力にぎゅっと目を瞑ると聞きなれた声が聞こえた。
「久作」
肩を叩かれて振り返ると中在家長次先輩がいた。綾部先輩は僕から距離を取ると中在家先輩にいつになったら教えてくれるんですか、と問う。
中在家先輩は教えたはずだ、と答えたので僕が通訳をすると綾部先輩は「儀式のことです」と言う。
何回か通訳をした後で「もういいです」と言って興味をなくしたように去っていった。
俺は中在家先輩が花を持っていたことに気がついてその花を覗き込む。
「彼岸花、ですか」
彼岸花は別名地獄花とも呼ばれているらしい。
昔、豆知識として教えてもらったことを思い出した。
「……私はきっと地獄へ行くな」
「私たち、でしょう」
俺も共犯。
あの城の儀式が行われたなら、佐伯さんは死んだほうがましだと絶望しながら徐々に消えていく。
あの城は目的の為ならばなんでもする。何処に行っても彼らの手から逃れられないのであれば絶望する前にと手にかけた。
善意からくる殺しでも人殺しには違いない。
蒸し暑くて頭につけていた頭巾を取ると生温い風が首を通っていって、気持ち悪かった。
「彼奴はどの天女よりもいる期間が短かった」
そうですね。初めて会った時から数ヶ月かしか経っていませんから。
「こんなにも忘れたくないと思うのは、佐伯が初めてだ」
もうお盆だ。そのうち幽霊の姿でもひょっこり戻って来てくれないだろうか。
どうか身勝手な俺の話を聞いてはくれないだろうか。
「僕もそう思いますよ」
だって、先輩が知らないことを俺は知っている。
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みこち(プロフ) - 小説にも書いてますが、義丸が特に押しキャラです。真面目な話もありますので、お楽しみ頂けたら幸いです。 (2019年9月20日 6時) (レス) id: 3f5bca2fa0 (このIDを非表示/違反報告)
みこち(プロフ) - 本当に嬉しいご返事感謝します。幾つかありますが、その中に、兵庫水軍を出している奴が二つ程あります。彼らは余り詳しく無いんですが、YouTuberで彼等を見てたらドはまりしてしまって。乱太郎達と一緒に海で戦う姿は特に好きです。 (2019年9月20日 6時) (レス) id: 3f5bca2fa0 (このIDを非表示/違反報告)
さえきやなぎ(プロフ) - みこちさん» 返信が遅くなってしまい、申し訳ございません。処女作であり、まだまだ不出来なこの小説を真剣に読んで下さり、とても有り難いことでもあり嬉しいです^ ^みこちさんも小説をお書きになっていらっしゃるとのことですのでお言葉に甘えてお尋ねします(*^^*) (2019年9月20日 0時) (レス) id: d037e4ab14 (このIDを非表示/違反報告)
さえきやなぎ(プロフ) - みこちさん» みこちさん、コメントありがとうございます!前にもたくさんのご質問ありがとうございました。申し訳ございませんがその話が出てくるのはもう少し先の話になりますので待っていただけると幸いです。更新がとても遅く、ご迷惑をおかけします。 (2019年9月20日 0時) (レス) id: d037e4ab14 (このIDを非表示/違反報告)
みこち(プロフ) - お久しぶりです。更新楽しみにしています。私も、忍たま小説書いてます。よろしければ、お訪ね下さい。前にお聞きしましたが、学園の皆は、きり丸が夢主を無実だと言っているのはいつの場面ですか?できれば知りたいです。 (2019年8月26日 15時) (レス) id: 3f5bca2fa0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さえき | 作成日時:2018年7月29日 3時