苦労 ページ1
滝夜叉丸は 戻る、と小さく呟くと話しかけようとした私の口をまた抑えて保健室から出て行ってしまった。
しばらくすると新野先生が戻ってきて穏やかな笑みを浮かべて問いかける。
「大丈夫だったでしょう?」
あれは大丈夫だといえるのだろうか。何も言えずに俯いていると、新野先生は苦笑して話し始めた。
「彼は……苦労しましたからね。今、伝えることではありませんでしたか」
また天女様のことかともう想像がつく。考えるとつい手に力が入ってしまって傷が痛んだ。
新野先生の笑みは画面の中で見たことがある温かで人を安心させるものだった。いつも相手のことを思って気がついて嫌なことも良いことに変えてくれる。
今も私が何かを伝えようとしているのに気がついて声をかけてくれる。でもそれで良いわけではない。
「新野先生は辛くありませんか」
だって、新野先生は忍術学園のことを思って私にあんな対応をしたから。それはきっと辛い。
本人でなければ分からない感覚だけど、言葉にせずにはいられなかった。
「……辛いですよ」
悲しさを押し殺した声をしていた。
多くの言葉を並べ立てられるよりも痛みが分かる一言。
私を見ない。助けを求めない。ここでの態度の全ては先生という立場の孤独さを表していた。
「でも私は先生です」
新野先生は相変わらず微笑んでいて、やっぱり敵わないと一度視線を逸らして先生に視線を戻す。
咳き込むと先生は無理をしないでと心配して声をかけてくれて背中をさすってくれる。そのことが無性に嬉しかった。
「……それなら私は」
喉が痛い。体も痛い。それでも伝えなければならない。
みんなが大切だ。お節介かもしれないけれども仲直りの手助けをしたい。出来ることなんて少なくて、もしかしたらないのかもしれない。でも、もう私は彼らを放っておけない。
「私は天女ですからこの世界を救います」
ガラガラの声でそう伝えると先生は私の背中を撫でていた手を止めて、いつもと同じ表情をして笑い声をあげる。それは優しく綺麗なものだった。
「とある物語で天女様はそのような役割を担っていると聞きました。貴方がもしもその物語のようにこの学園をこの世界を救ってくれたなら、幸せな日常をまた送れますね」
声が枯れてしまった私は心の中で呟く。
いつか本物を見て、笑いあえる日々が続いて欲しい。
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みこち(プロフ) - 小説にも書いてますが、義丸が特に押しキャラです。真面目な話もありますので、お楽しみ頂けたら幸いです。 (2019年9月20日 6時) (レス) id: 3f5bca2fa0 (このIDを非表示/違反報告)
みこち(プロフ) - 本当に嬉しいご返事感謝します。幾つかありますが、その中に、兵庫水軍を出している奴が二つ程あります。彼らは余り詳しく無いんですが、YouTuberで彼等を見てたらドはまりしてしまって。乱太郎達と一緒に海で戦う姿は特に好きです。 (2019年9月20日 6時) (レス) id: 3f5bca2fa0 (このIDを非表示/違反報告)
さえきやなぎ(プロフ) - みこちさん» 返信が遅くなってしまい、申し訳ございません。処女作であり、まだまだ不出来なこの小説を真剣に読んで下さり、とても有り難いことでもあり嬉しいです^ ^みこちさんも小説をお書きになっていらっしゃるとのことですのでお言葉に甘えてお尋ねします(*^^*) (2019年9月20日 0時) (レス) id: d037e4ab14 (このIDを非表示/違反報告)
さえきやなぎ(プロフ) - みこちさん» みこちさん、コメントありがとうございます!前にもたくさんのご質問ありがとうございました。申し訳ございませんがその話が出てくるのはもう少し先の話になりますので待っていただけると幸いです。更新がとても遅く、ご迷惑をおかけします。 (2019年9月20日 0時) (レス) id: d037e4ab14 (このIDを非表示/違反報告)
みこち(プロフ) - お久しぶりです。更新楽しみにしています。私も、忍たま小説書いてます。よろしければ、お訪ね下さい。前にお聞きしましたが、学園の皆は、きり丸が夢主を無実だと言っているのはいつの場面ですか?できれば知りたいです。 (2019年8月26日 15時) (レス) id: 3f5bca2fa0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さえき | 作成日時:2018年7月29日 3時