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文化祭が終わって借りていた機材を返しに指定された教室へ向かっていたときだった。
誰もいないはずの教室の前で二人分の鞄を抱えた伊野尾先輩が突っ立っていたのを見かけたのは。
電気の付いてない暗い廊下で声を殺して中の様子を伺う先輩を不思議に思い、近づこうとして足を止めた。もしや幽霊でもいるのか、そして伊野尾先輩は金縛りにでもなってるのではと、情けないことに怖気づいてしまったからだ。
それが事実だったなら助けるべき状況ではあったが、この時は声をかけなくて正解だったと後になって思った。
暫く固まっていた先輩の体が、突然後ろによろめいた。何かに大きく動揺しているようで、心配になった俺は機材を置き駆け寄ろうとした。が、途端に先輩は廊下の奥へと走り去ってしまった。
取り残された俺はただ呆然とするあまり動けないでいたが、先輩が一体何を見たのかが気になり、恐る恐る先輩が覗いていた教室を見て、全てを悟った。
知りたくなかった。けど、薄々勘付いていた。
薄暗い教室には、大ちゃんと…泣きじゃくる女の子が一人。一見切ない場面のようだが、どちらも表情は笑っていた。どことなく漂う雰囲気は甘く、それがただの男と女の関係ではないことは嫌でも分かってしまった。
大ちゃんに新しい彼女ができた。
それは特別珍しいことではなかった。大ちゃんには今まで何人も彼女がいたし、女子から人気があるのも中学の頃から変わっていない。
でも、あんな伊野尾先輩を見てしまったら。あからさまに傷ついたような顔をされたら、その事実がどれほどのことか思い知ってしまう。そして、先輩のその秘めた想いに俺は悲しくなった。
花火大会の時に思ったんだ。伊野尾先輩の大ちゃんへの眼差しには他には現れない特別な感情が入り混じってるんじゃないかって。
恋をしている人は、同志を敏感に察知する。そう、想う相手は違えど伊野尾先輩は俺と同志だった。
けどそれは、大ちゃんも同じだと思っていた。
俺の見当違いだった?相手に伝えていないだけで既に想いは重なっていたように感じたのは、自身の嫉妬が見せた幻だったのか?大ちゃんがまるで大事な宝物のように伊野尾先輩を扱っていたのは、本当に『従兄弟だから』の理由だけだったの?
…それじゃあ伊野尾先輩の気持ちはどうなるのさ。そんなに大切なものをこんなにも簡単に傷つけてしまうのか。
「俺…、大ちゃんが分かんねえよ…」
握りしめた拳は、怒りと悲しみで震えていた。
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いちご(プロフ) - シリーズすべて読ませていただきました!楽しかったり、苦しかったり、切なかったり…とても面白いです!1番大好きなありいのの作品です!とても続きが気になるので、また書いてくださると嬉しいです。心よりお待ちしてます!! (2019年5月29日 10時) (レス) id: 46fdb26abc (このIDを非表示/違反報告)
零(プロフ) - いつか更新して下さることを心待ちにしております!とっても気になります…!頑張って下さい! (2017年7月2日 23時) (レス) id: 232a914972 (このIDを非表示/違反報告)
苺米(プロフ) - はじめまして!この作品大好きです!!!いつかまた続きをかいてくださることを楽しみに待っております。 (2017年5月14日 19時) (レス) id: 226b1e3a5a (このIDを非表示/違反報告)
ao(プロフ) - 初めまして!今更ながらシリーズ全て読ませていただきました!設定、ストーリー大好きです。笑えるところもあってだけど切なくて淡い…感動して泣きそうになってしまいました!しばらく更新されてないようですが、気長に楽しみに待ってます! (2017年2月13日 12時) (レス) id: 056be967bd (このIDを非表示/違反報告)
まよ(プロフ) - コメント失礼します。更新待っておりました!これからもどうぞ作者様のペースで...楽しみにしております! (2016年11月1日 23時) (レス) id: cde03f2c07 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:迫田ゆめの | 作成日時:2016年11月1日 15時