恋は空振り、すれ違い【轟焦凍】 (ページ19)

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第一章：全てを捨て置いてⅩⅧ ページ19

キス、される。
　本能的に感じ取った。耳がぴん、と立って震えてしまう。あわてふためくように、尻尾が揺れる。

　ちょっ、と静止を求めようとするが、声がでない。
　近づいていく彼の顔。表情を見ても、なにを考えているのか分からない。
　焦凍の、見たことない表情………。
　困惑が困惑を呼んで、頭が空回る。心臓もばくばく鳴って、全身に熱が回って。目の淵に涙が溜まる。
　――な、なんで…………どうして、なの………焦凍っ！

「……妖華」
「……っ！」

　唇が、触れる、寸前。

「……！」
　わずかにそれて、肩に収まった。
　わたしが噛んでないほうの、握りしめていたほうの肩。

「え、えと………？」
「………もう、勝手に居なくなるなよ」
「えっ、あ、はい………」

　流されるように頷くと、後頭部に回された手が離れた。
　すぐに頭を起こすと、焦凍はなにもなかったようにはだけたシャツを整え始める。「お、速ェな。噛まれたとこもう治ってる」なんて言いながら。

　………え。
　わたしは、無言で唇に触れる。
　何事もなかったように服を整える焦凍を端目で見て、まさか………と自分の誤りに羞恥心の熱が沸々と再燃する。

　――わたしの、勘違、い……………
「～～～～～～～っ‼️?」
　ぼぼぼぼっ、頭から蒸気がでるかと思った。
　さ、最悪！私なに考えてんの！

「どうかしたのか、妖華」
「な、なんでも、ないっです！」
「だからなんで敬語なんだ？」
「じ、じゃ、わたし帰ります！」
「あ、おい」

　耐えられなくなって、焦凍を置いて全力ダッシュで教室から出た。焦凍が手を伸ばして捕まえようとするが、わずかに遅かった。追おうとしても、素の身体能力では残念ながら妖狐の妖華には叶わない。
　なんとか、妖華は逃げることに成功したのだ。

　あのまま家まで全力ダッシュで帰って、全力でベッドにダイブした。
　ぼふっ。枕に顔をうずめて、今日の出来事をを思い起こす。

　…………６年ぶりに、焦凍と再開した。
　恨み言を言われると思ってた。もっとヒーロー科にいることを責められると思ってた。６年前のことを問い詰められると思ってた。それこそ殺される覚悟だってあった。――だって、それだけのことをしてしまった、と思っているから。

　でも、予想は遥かに外れた。

　問い詰めるような言葉は何個か言われたけど、答えは求めていなかった。全く、責めようとしなかった。――それ以上に、《契約》を求めてきた。