恋は空振り、すれ違い【轟焦凍】 (ページ18)

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第一章：全てを捨て置いてⅩⅦ ページ18

ぐっと決意して、自分の手を焦凍の首筋に添える。
「(震えるな……震えちゃだめだわたしの手……っ)」

「震えてんぞ」
「………!?」
　どうやら、震えは止まっていなかったらしい。焦凍が軽く指摘して、あろうことか手を重ねてきた。
　し、心臓に悪い………。だがここはぐっと口を引き結んで、今から《噛む》ところを指先でなぞる。

「今からここ、噛むね」
　その答えは聞かずに顔をうずめてツツ……と噛む場所を舐める。
「………、」
　わずかに反応する焦凍。……それを意識しないように、駆け足気味に牙を突き立てた。
「……っ、」
　ちゅっ、と滲みでてくる血を吸って、そのまま首筋から唇を離さないまま牙を抜く。
　今度は自分の舌に牙を立て、吹き出る血を混ぜ合わせて、それを焦凍の体に送った。
　同時に、自分も牙を突き立てた舌からその血を取り込む。
　自分のじゃない血が流れてくるのが分かる。
　焦凍の血が身体中を駆け巡って、強引に全身を塗り替えられていくような感覚。
　――それが屈辱的なまでに心地よくて身体が震えた。
「ん……っ、んぅ――っ」
　手を置いていた肩に力が籠って、服を握りしめる。ジトリと汗ばんで、絶え間ない、この感覚が集中を掻き乱す。

「(焦凍も同じ感覚のはずなのに……なんで無反応でいられるの……っ?!)」

　……いや、これってわたしの個性の所為？

　そう考えることで、なんとか全ての血を流し終えたのは茜色が闇色にくすみ始めた頃だった。

「……はぁっ、」

　すると、ポゥ、と契約の証が刻印となって体に現れた。

　わたしは首に、鎖のような刻印が。
　焦凍には右の手の甲に、狐の横顔の刻印が。

　その二つの刻印は、薄い緋色の燐光を放ったあと、消えてしまった。
　完全に消えたわけでなく、契約の効力を使っている時だけ光を放つのだ。

「体は、どう……？」
「……………………」
「焦凍？」
「………、ああ、体が軽いな」

　契約の効力はたくさんあるが、そのひとつに身体能力の向上がある。これは、相手に与えられる恩恵で、わたしには残念ながら与えられない。
　というより、この契約は相手にばかり利益がある。
　それってちょっと理不尽だよなあ…………

「……………………………え、焦凍？」

　不意に、焦凍の手がわたしの後頭部に回された。そのまま引き寄せられて、顔が近づいた。

――
補足：妖術かなんかで血を送ったり取り込んだりしています。

実は契約の仕方にめちゃくちゃ悩んだ。