恋は空振り、すれ違い【轟焦凍】 (ページ17)

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第一章：全てを捨て置いてⅩⅥ ページ17

「どう、いう、こと……？」

　予想外の、焦凍の怒りに困惑しながら声をひねり出す。
　そんなわたしを見て、焦凍は小さく、ため息を吐いた。
　それだけで、胸が苦しくなった。死神に、心臓を貫かれた気分になる。
　今度は、わたしが目を見開いた。

「俺は、忘れたいなんて思ってねえ」

「………!?」
「それに、俺に幸せになってもらいたい、って言ったよな。――妖華、なにか勘違いしてないか？」
「………え、」
「俺の幸せはそんなんじゃない」
「………………っ？」

　さらに困惑が加速していく。
　ちょっと待ってよ、あなたの考えが分からないよ。あなたの、言葉に頭が追い付かない。

「なあ、妖華。俺の幸せを望むってんなら――俺ともう一度契約してくれ」

「…………なっ、?!」
　なんで‼️
　なんで貴方は、わたし突き放そうとしないの！なんで、わたしと関係を持とうとするの！

「…………ッ」

　………………………。
　ああ。
　でも、それでも、あなたが、焦凍が、そう、望むなら。
　それで、あなたが幸せに架け橋となるのなら。

「………後悔したら、すぐ解約してあげるから」
「それは無(ね)え」
「……………………分かったよ」

　わたしは、全てを捨て置いてでも、あなたに従おう。

「それじゃあ、契約を交わそう」

×

　契約はいたって簡単だ。
　互いの血を交わす、それだけ。
「…………」
　だけ、なのだが。
　それが、問題だった。
「………あの、し、焦凍さん」
「なんでさん付けしてんだ？」
「…………いや、そのね」

　夕暮れの教室は、二人を仄かに茜色に染めて黄昏時を作り出す。
　相手の輪郭がほの暗い茜色に隠れ、その正体を明かしたいと沸き上がる淡い感情を掻き立てる。
　もしそれが男女であれば、それは時には恋に繋がる茜色ともなる。

　そんな、アブナイ教室で。

　――顔の整った彼が、服をはだけさせているなんて、問題多アリだ。

「いやじゃ、ないの？」
「ああ」
　キッパリと言われても、わたしが納得できない。
　チラリとはだけた服から覗く首筋と鎖骨に目を移す。
　ああ、ヤバい。これは非常に由々しき事態。
　なんというか………その、…………うん、色気がヤバい。

　――まさか、契約を交わすどころかこんなことで焦凍の成長を実感するなんて…………

「頭なんか抱えてどうした」
「い、いや、なんでもないよ」

　注意されて、煩悩を散らすように頭をふった。
　よし、ここは一気にやろう。