【憂国のモリアーティ】姉さん、姉さん。 (ページ4)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:31,983 hit

貴族狩りページ4

時間軸は橋の上の踊り子の後、伯爵子弟誘拐事件の前です
＿＿＿

ロンドン邸

「＿＿＿＿おや？これは……」

一枚、丁寧に封蝋された手紙が、翡翠の瞳をもった美しき青年＿モリアーティ家が当主、アルバート・ジェームズ・モリアーティのもとへと届いた。

差出人はアルバートが愛する二人の弟、ウィリアムとルイスからだった。

あの二人が定期報告以外の手紙を寄越すことは珍しく、まさか至急のことなのかと不穏な推測をしてしまう。

アルバートは椅子にも座らず、その場で手紙の封蝋を解いた。

「…貴族狩り？」

手紙の第一文目は【貴族狩りに気をつけてください】という物騒な触りで始まった。

どこかで聞いたことがあるなと思いながら、眼を下へ進めると“貴族狩り”なるものの説明があった。

ウィリアムとルイスからの説明によると、貴族狩りとは現在ロンドンを中心に暗躍している“貴族専門の暗殺者(アサシン)”だそうだ。

ああ、軍でお偉いさんたちの話題になっていたな、と頭の片隅へ押しやられていた記憶を引っ張り出す。

“無差別に貴族を殺しているため、もしかしたら兄さんに襲いかかってくるやも知れない”とあり、気をつけて欲しいと言った旨が記されてあった。

アルバートは弟二人の優しさに思わず口元が綻んでしまう。おっと、いけないと唇を引き締め、残りの内容に指をなぞった。

【今のところはこちら側(犯罪卿)に得がありますが、もしこちらに牙を剥くことになったら“貴族狩り”を如何するかの判断を下ろします。

貴族狩りがこれ以上活躍するようでしたら、僕らの計画に支障がでるために簡単にはいかないと思いますが正体をつきとめ、“始末”、もしくは志が同じくしていたら仲間に引き入れたいと思っています。

兄さんからの了承を頂きたい。

そしてもし、軍に貴族狩りについての情報が回っていたら、逐一報告をよろしくお願いいたします。

貴族狩りはどの犯行も、首への細く鋭い刃物で一突き、といった中々の手練れです。武器は不明。

ルイスも心配しています。万が一ですが、お気をつけください。

そしてこの手紙もいつもの通りに。】

「＿＿＿＿＿ふむ」

内容を一言一句残さず記憶し、“いつもの通りに”手紙を燭台にくべる。

煌々と揺らめく蝋燭の炎に、手紙が黒く変色してボロボロと崩れ落ちて行く。

その様子をアルバートは、翡翠の瞳で悩ましげに眺めていた。

「さて、どうしようか」