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最後に倫也がお見舞いに来てから1週間と少し、Aの退院の日がやってきた
倫也はあの日の言葉通り忙しくしている様でお見舞いには一度も来れていない
その間不動産屋との契約を交わして新しい住処を手に入れたAは寂しさを紛らわせる様に倫也へのプレゼントである帽子を選び、新しい住所へ退院の日に届く様に準備をしていた
『よし、忘れ物ないかな?』
殆ど荷物は持ってきていなかったAだが一応の確認の為数週間お世話になった部屋を見渡し、倫也からのプレゼントである帽子を被る
『じゃあ、お世話になりました』
ナースステーションへと足を進めて挨拶をしてから1階へ降りて数週間分の料金を支払う
もちろん現金は殆ど持ち合わせていなかった為、カードでの支払いになった
『まぶしー…』
病院の外に出ると久しぶりに浴びる太陽の日差しに懐かしくなりながら目を細めた
視界の隅にタクシー乗り場を見つけてすぐに乗りこむ
運転手に住所を伝え、ぼーっと窓の外の景色を見ながら心のワクワクに釣られて緩みそうになる頬を抑えた
退院の日には倫也の隣の部屋に入居する事が出来る様に不動産屋が調節してくれた為に、今日から新居に住む
一昨日渡された鍵を掌に包み込みAは嬉しそうに微笑んだ
タクシーから降りてオートロックを外しエレベーターへと乗り込んだ後自分の家へと目指す
『ただいま』
初めて来る家なのにただいまでいいのだろうか?等とどうでも良い事を考えながら荷物を置き一通り部屋を見て回った後に致命的なミスに気がついた
『家具の事忘れてたな…』
退院後の住居の心配だけはしっかりとしていたのに、決まった事で気持ちが緩み家具の事はすっかり抜け落ちてしまっていた
『買うの勿体無いよね…レンタルしよっかな』
そう呟くとスマホを取り出し、1週間から借りられる家具のリース業者を検索して、必要そうなものだけ注文する
『布団はネットで良いか、今日中に届くかな?』
まぁ大丈夫か、とAは大雑把に考えて本日中お届けとなっている布団のセットを注文したーーと同時に着信が鳴る
ディスプレイには中村さんの文字
Aはすぐに通話ボタンを押した
『もしもし!』
「もしもし、声大きいよどうしたの?」
クスクスと倫也が電話の向こうで笑っている
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作者名:村民 | 作成日時:2023年2月17日 17時