55話 ページ25
あ)「謝らないで」
至)「と言われましても。実際、運ぶの大変だったでしょ？」
あ)「私、運んでない」
至)「運んでない？え、じゃあどうしたわけ？」
あ)「摂津くん？が来てくれたの」
せっつ？
摂津って、あの？
俺の知ってる万里であってる？
あ)「ちーが倒れた時、丁度LIMEが来てたから」
咄嗟に、アイフォンがないかを探る。
津野崎はそれに気づき、取ってくれた。
開くと、万里から"やるな、至さん"ときていた。
クソ万里、覚えてろ。
…とか思ったけど。
実際に運んでくれたわけだし。
帰ったらお礼に何か買ってあげようかな。
あ)「…何か、まずかった？」
至)「いや、助かった。ありがとう」
あ)「あのさ、ちー」
津野崎は、右手で左手首を握りしめ、不安そうな、様子を伺うような顔で話し始めた。
あ)「あの時、ちーが来てくれなかったら、酷いことになってた。ありがとう」
そう言って、ぎこちなく微笑んだ。
だけど握りしめる手は、先程より幾分か強く握ったように見えた。
あ)「でも…でもね。…私、もう一発ぐらい殴っときたかった。……ごめん、せっかく助けてくれたのに、こんなこと言って」
あの時。
津野崎を止めることが最善だと思った。
人目もあったし、訴えられでもしたらこっちが負ける。
だけどそれは世間体を気にしてのことで。
友達としては、止めない方が良かったのかも。
むしろ俺が一発殴っとけばよかったかな。
そんな体力も力もないけど。
俺が黙ってるのを見て、怒ってると勘違いしたのか、津野崎は焦りはじめた。
あ)「あ、違うの。あの時、ちーが来てくれて本当に嬉しかった。本当だよ」
至)「疑ってないよ。ただ、俺世間体ばかり気にしちゃったから、反省してたとこ」
あ)「反省？」
至)「そ。乙女心分かんなくてごめん」
あ)「反省なんてしなくていいよ！」
至)「わっ」
津野崎の今日一日の大声。
それに驚いて、体が跳ねた。
何、びっくりしたんだけど。
俺一応病人ね。
もう少し至さんに、優しくしてほしいかな。
あ)「そうじゃなくて…」
津野崎は、あーもう、なんて言って髪を乱暴にかいた。
それから、ベッドに上がり、その上で正座をした。
至)「ちょ、津野崎、どうした？」
あ)「今のは私のわがままだから。真に受けないで」
至)「わがままって、どれが？」
あ)「もう一発殴りたかった」
至)「はぁ、」
どうもイマイチ、俺達は会話が噛み合わない。
ちょっと、何言ってるのかわからないんだけど。
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作者名：なーこ | 作成日時：2019年1月17日 22時
