鶴の無き声 ９

250話 ページ10

その日は、やってきた。

歌)「ほら！しっかり！頭が見えてきたよ！」

あ)「ぅっ！はぁはぁ…っあぁ、あああ！」

歌)「後少しだ」

あ)「ぁあああ！」

私は最後の力を振り絞って、産み出した。
私の、宝物を。

声は一つじゃなく、二つ。
あぁ、神様、ありがとうございます。

あ)「…っか、せん…っ準備…っはぁ…」

歌)「君、…体力が」

あ)「いい！…お願い、歌仙」

歌)「…あぁ」

私には、時間がなかった。
強引に進める。

フラフラな体をどうにか起こし、宝物を抱いた。

あ)「…っあぁ、私の…宝物。…愛してるわ」




歌)「…さぁ、出来たよ」

燭)「…綺麗だ」

あ)「ありがとう。…今まで、本当に、ありがとう」

歌)「やめてくれないかっ…」

燭)「…っ」

私はおばあちゃんに貰った、嫁入り衣装を身にまとう。
白に身を包み、私を着飾ってくれた2人は、母親だった。

ツンと、鼻が痛くなる。
だけど、泣かない。

言葉が出ない2人と外に出てる。

鶴)「…あぁ、こりゃぁ驚いた。…別嬪さんだなぁ」

あ)「鶴丸。…貴方は私のおじいちゃん。あの日、貴方を見れて、貴方と過ごせてよかった」

鶴)「…俺もさ。可愛い孫娘よ。…さぁ、行こう」

あ)「えぇ」

鶴丸と腕を組み、赤い絨毯の上を歩く。

髭)「…やぁ、綺麗だねぇ。僕の、花嫁さん」

あ)「貴方も素敵よ、私の旦那様」

鶴丸から離れ、ひーちゃんと腕を組む。

あ)「…皆、後は頼むわね」

乱)「待って！」

あ)「乱…」

乱)「…僕から、お祝い」

乱の手には、見覚えのある刀。
私が愛してやまない刀だった。

あ)「…ありがとう」

懐かしい刀に、手が震える。
ちょん、と触れば、この日に相応しい、綺麗な花弁が舞った。

「… 僕はにっかり青江。君の愛刀さ。なんてね。…久しぶり、A」

あ)「…っ青江！」

私達は手を取り合った。
だけど、それ以上はしない。

青)「ふふ。…綺麗だねぇ。おめでとう」

あ)「…ありがとう」

それ以上、何も言わなかった。
私と青江の髪には、簪がささる。

それだけで、充分だった。

安)「ほら、君の子だよ」

清)「双子を出産なんて、やるじゃん」

安定と清光の腕に抱かれた我が子を、ひーちゃんと私が受け取る。
それから4人で写真を撮ってもらった。

あ)「…青江」

青)「…あぁ」

あ)「この子を、頼むわね」

青)「任せて」

あ)「乱」

乱)「わかってる」

2人を預け、頷いた。

あ)「…皆、ありがとう」

祝福の声と共に、私達は消えた。
花弁のように、消えた。

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