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ぜぇぜぇと息をしながら、そう言う炭治郎。
まさか原作が始まっていたとは…。
恐らく今は、鱗滝さんが炭治郎を連れて山へ登る前だ。
家の扉を開く音が聞こえて、がさり、と何かが置かれると、また扉が閉められた。
炭治郎と鱗滝さんが離れたのを確認した後、そっと寝ている禰豆子ちゃんの近くへ寄った。
可愛らしい顔立ちで、長く艶やかな黒髪の女の子。
『可愛いな…』
顔にかかった黒髪をそっと退かしてやる。
まさか、私が原作と同じ時間軸に生きているとは思いもしなかった。
私の居場所なんて、この小さな小屋にしかない。
けれど、炭治郎などの主要キャラクターに関わって原作が変わってしまったらそれこそ最悪だ。
もう誰かが死ぬのは見たくないのに。
いや、正確にはこうか。
これ以上、私のせいで誰かが死ぬのは見たくない。
しばらく禰豆子ちゃんを見たり、部屋をうろうろしたりしていたら、鱗滝さんが帰ってきた。
落ち着きのない私に、一通り事情を教える。
「…きっと、あの子は試練を越えられない」
『も、もしも越えられたら…炭治郎は』
「…この家に住みこみで鍛錬させる。
あぁ、炭治郎はお前とは違う部屋で住まわせるから大丈夫だ。」
年頃である私に、何を思ったか、そんなことを言われて、慌てて声を出した。
『わ、私は大丈夫です!奥の物置小屋で過ごします。炭治郎には、普通に接してください!』
「奥の物置小屋なんて…小さく汚れもある。
とても人が過ごせるとは思えないが…」
『っい、いまから掃除すればギリギリ間に合います!ちょっと行ってきます!』
一目散に駆け出した。
*
やけに慌てた様子で、部屋を飛び出したあの子の背中を眺めながら、ふと、こんなことを儂は思った。
あの子は可哀想な子だ。と
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作者名:ところどころどくろ | 作成日時:2023年4月21日 19時