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肩で息をしながら、1歩ずつ、1歩ずつ家に近づく。
「…!!ダメだ!行くな!!」
耳をつんざく鱗滝さんの声も、耳に入らない。
自分のうるさい心臓の鼓動だけが聞こえる。
『…あぁ…あ、あぁ…!!!!!』
我が家は、戸が外から破壊されていて、部屋の中からは、むせかえるほどの濃い、血の匂いがした。
なにかに惹き付けられるように、おぼつかない足取りで、その部屋に足を踏み入れる。
そして、見つけてしまった。
惨たらしく切り裂かれた母と弟。
そして口元に血をべっとりとつけた、
____私の父を。
『…なんでだよ』
拳を血が滲むほど握りしめる。
夢主特有の、悲しい過去というものだろうか。
この経験から様々なことを学ぶのだろうか。
『ふざけるなよ』
愛していた。愛してくれていた。
そんな家族を殺されて、何が悲しい過去だ。
悲しいなんてもんじゃないだろ。
完全な、絶望だ。
「ゥあ"…」
鬼となった父は未だに立ち尽くしている私に目もくれず血を啜り続けていた。
その時、ふと、か細い声が聞こえた。
はっとしてそちらを向くと、母が、息をしていた。
急いで駆けつける。
『お母さん…ごめん、ごめんね、
今すぐ何とかするから、鱗滝さんもすぐ来るよ。
だからお願い死なないで。』
「…Aは、生きて、おねが…い
に、げて…ここにい、たら、」
『…っ!…くそ』
母が喋る度に腹から溢れ出る血が増えることに気がついた。けれど、母の言葉を止めることは出来なかった。
微かに残った冷静な頭が、理解していたのだ。
母も、弟も、もう助からない。
それでも、
『お願い、死なないで…お、おねがいだよ、』
「A…わたしの、かわいいこ…」
母は、もう力も入らないはずの腕を必死に動かして、私の頬を包み込んだ。
びったりと血の着いた両手に私はそっと手を添えた。
血の生暖かさが、母の死を容赦なく伝えてくる。
『お母さん…だめ…しんじゃ、やだよ…
ずっとみんなで、明日も、明後日も、…っ』
明日も、明後日も、延々では無いけれど、まだ十分にある時間を皆で過ごすんだ。
かけがいのない時間を。
思い出を。
みんなで紡ぐんだ。
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作者名:ところどころどくろ | 作成日時:2023年4月21日 19時