いただきます【黄金の風】 (ページ2)

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母は離婚する前から浮気していた男の元に身を置いた。

　『お前はアイツと似ていないが…可愛いな。仕事帰りになにか土産を買ってきてやろう。何がいい？』

　男の方は私を人形のように可愛がってくれるが母はそれが妬ましいのか、男がみていないところでは私に強く当たる。

　家事を押し付け、拳を振り下ろし、髪まで切られた。

　男はそれに気付くが私は誤魔化す。

　｢長くなって邪魔だったから自分で切ったの。｣

　…父が褒めてくれた黒髪を切られたのはショックだったが、命が惜しい私は隠し通した。

　そんな私にも限界は来る。

　その限界は、母のとある一言で迎えた。

　｢あんたみたいな愚図を産んだ奴の顔が見て見たいよ。｣

　私は手元にあったナイフを投げた。

　激怒した母は私の首を絞める。

　｢あ、あ……｣

　朦朧とする意識の中でも、私は考えた。

　私はテーブルのあしを蹴り、花瓶を落とし、その割れた破片を手に取り母の瞳へと突き立てる。

　のたうち回る母をよそ目に起き上がり、フラフラと椅子を引きずって滅多打ちにした。

　あの時の様子が未だ忘れられない。

　飛び散る鮮血、耳の奥を引っ掻くような叫び声、逃げようと芋虫の様に這いずって逃れようとする母の姿。

　どれもが私にとっては初めての光景で、実に興味深かった。

　ふと口の横に母の血が着いていたことに気づく。

　舐めてみた。

　『他人の血』というのは自分が思っていたより魅力的なものではなかったが

　鉄のような香りがして、少し…しょっぱさが感じられたと思う。

　喉に引っかかる感じに違和感を覚えるが、不快ではなかった。

　肉は、どんな味なのだろう?

　そう考えた瞬間、男が帰ってくる。

　母は男に縋り付くが、父は私の首に残る手形を見て私の方へ駆け寄った。

　前々から母が私に強く当たっていることには気付いていたようだったから、私が叱られるような事はなかった。

　