幼児化炭治郎と柱たち (ページ6)

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陸【不死川実弥】ページ6

「弟…か。」
先程茶屋のお婆さんに言われた言葉を反芻する。
玄弥とは、長らく街を歩いていない。
「さね、弟がいるのか？」
おはぎを頬張っていた炭治郎が実弥の言葉を聞いて、顔を上げる。
実弥ははっと我に帰ると、あぁと頷いた。
「いるぜぇ。玄弥ってんだ。」
「げんや！げんやか。おれの弟は竹雄って言うんだ！可愛いんだぞ。」
ふんす、と胸をはる炭治郎。
彼は、兄として立派だった。
禰豆子を守り、家族を殺した鬼を許さない。
そんな彼の生き様に憧れた。
弟を遠ざけることしかできない自分とは大違いだ。
この立派な『兄』に比べて自分はどうだろう？
玄弥の兄なんかじゃないんじゃないか。
漠然と…そう思った実弥はふっ…と息をはいた。
「だがなぁ。俺は弱いからなぁ。兄じゃないかもなぁ…。」
「さねは、弱いのか？」
こてん、と首を傾げる炭治郎の瞳は今も昔も変わらず澄みきっている。
まるで、全てを見透かされているようだと感じることも多い。
「…どうだろうな。でもなぁ…守れなかった。守れなくて…唯一残った玄弥だけは守り抜きたいのに、遠ざけて傷つけることしかできねぇ。…兄とは、呼べないな。」
自分で言っていて涙の出る思いだった。
なんて情け無い。
だが、これが現実だった。
「…そうなのか？」
「ん？」
「おれは、そんなことないとおもう！」
おはぎを食べきった炭治郎は、突然そう言った。
澄み切った…偽りのない瞳のままで。
「どんなかたちでも、弟を守ろうとするさねのこころは本当だから。だから、大丈夫！さねは、げんやの兄ちゃんだ。」
にぱっ、と炭治郎が笑う。
その太陽のような笑顔はあまりに眩しくて…暖かかった。
「そうかぁ。…そうかぁ。」
実弥の視界が滲む。
やっぱり、炭治郎は変わらない。
きっとこの幼児化で何があっても…変わらないだろう。
それが竈門炭治郎だ。
いつだって誰かの心に寄り添う、それができる凄いやつなんだ。
実弥は確信した。
「ありがとな、炭治郎。」
「…？どういたしまして！」
皿に残ったおはぎをぱくりと食べる。
いつの間にやら、日が暮れていた。
「さぁ、帰るかぁ。」
炭治郎が元に戻ったその時に、もう一度ありがとうと伝えよう。
実弥の言葉として、彼の記憶に残るように。
一歩進む勇気が出た、と。
おはぎの入った袋がかさりと揺れる。
こうして実弥と炭治郎の休日は、過ぎていったのだった。

ーこの後、玄弥と打ち解けた実弥が炭治郎を弟にしようと目論むのはまだ少し先のお話。