プロローグ ページ2
これは夢だ、と思ったことはある？
私はない。
あったとしても、それは兄さんが彼女でも連れてこない限りないだろう。
しかも、兄さんの彼女は当分画面から出てきそうにないので問題ない。
あ、って言ってもRPGの魔法使いとかヒーラーとかだけど。
そんな話がしたいんじゃなくって。
あれは3月とは思えないほど寒い日のこと。
山の上にある学園の正門前で、寒さに震えながら発表を待っていた。
私が待っているのは声優育成の名門校、宝石が丘学園の合格発表。
今どき珍しいパネル式の前には、顔面偏差値高めの男の子2人が言い合っている。
この寒い中、どこにそんな元気があるんだか…。
一瞬、ほんとに一瞬強い風でも吹いてフライングの発表でもこないかと待ってみる。
もちろん無駄だということもわかっているので、感情を無にしてみる。
…気づけば発表予定時刻の8時になっていた。
どうやら感情を無にするのは効果的らしい。
「ほらみなさん、お待ちかねの合格者だよ！」
かなり中性的な顔立ちの男の子が、気をとりなおして言う。
「ただいまから、宝石が丘学園入学試験の結果を発表いたします」
今度はキラッキラッオーラ満載の男の子が言った。
この場にいる大勢のうち、合格者はたったの40人程度。
悲鳴、歓声。
そんなものに囲まれて私も自分の番号を探した。
40個ぐらいの中で、一番上に書かれている、私の番号。
意味するのは、合格者の中でもたった一人がなれる特待生に私が選ばれたということ。
兄さんの後を追い、偏差値高めの進学校に入った。
それでも、どうしても声の道を諦めきれず半年経たずにやめ、養成所に入った。
姉さんには反対されたけど、兄さんは応援してくれた。
だからこうして、ここに立っている。
今年で17歳の私は、宝石が丘でもう一度、高校1年生になる。
今日みたいな、青空に輝く、太陽みたいなひとになるために＿＿＿
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作者名：伊織するめ | 作成日時：2019年9月6日 0時
