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6話 ページ9

『エデン組初配信のトリを務めますのはこのわたし……ライラ・クラークと申します〜!皆さま初めまして!どうぞご贔屓に〜!』

「……先輩」
「あ?」
「職場でそれ流すのやめてくれませんか……?」

リアルワールド西暦2021年7月から少し経った頃。都市エデンが誇る大手新聞社「エデン・タイムス」の昼休み、ライラ──もといAは、隣のデスクから漏れ聞こえる自分の配信アーカイブに耐え切れず顔を上げた。"先輩"と呼ばれた壮年の男は、スマホから顔を上げて口を尖らせる。

「なんでだ?いーじゃねえかよ、可愛い後輩の晴れ舞台だぞ?俺リアタイできなかったし」
「今ここで垂れ流しにされるのはさすがに気まずいですよ。せめてイヤホンをつけてください」
「しゃーねえなぁ」

ゴソゴソと鞄を漁り始めた男はAにとって記者としての先輩──でありながら、諜報隊としての先輩でもある。噂によれば養父である長官の同期であるとか、ないとか。いずれにせよ幼い頃からの顔見知りである彼ののらくらとした態度が、彼女はどうにも少し苦手だった。

「で、どうよ?」
「何がですか」
「"仕事"のことだよ。四六時中張り付いてんじゃおちおち休めねえだろ」

有線イヤホンを右耳にだけ突っ込みながら男は問う。ふむ、とAは少しの間考え込んだ。
新聞社の仕事に加えてライバーとしての配信や収録、そして件の監視任務や降って湧いてくる突発的な任務。……確かに、世間一般の基準で言えば多忙と言えるのだろう。
監視任務を任されている以上休日など無いに等しいが、それを除いて実質的に休日と言える日は──

「……次に休みが取れるのは、たぶん1ヶ月は先でしょうね」
「そんなにか!?おいおい、それじゃあ身体も保たんだろ。親父さんは何も言わねえのか?」
「言うも何も、仕事を寄越してくるのはその養父(ちち)ですよ。大丈夫です、わたし若いし丈夫なので」
「だとしてもなぁ……」
「それに、多忙とはいえ手を抜いていてはいずれぼろが出ます。仮に同期や事務所を誤魔化せたとしても、リスナーにはきっとバレる」

言いながら、Aはぱたんとラップトップを閉じて鞄にしまう。「どこか行くのか?」と問うた男に、彼女は「ええ」と短く返した。

「今日は夕方から収録なので。早退します」
「……確か、明日早朝から仕事だったよな?」
「ですね。また明日」
「また明日って、お前な……」

男のため息はもはや彼女の背中には届かず、そのまま颯爽とオフィスを後にした。

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作者名:七福 | 作成日時:2024年3月9日 16時

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