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20話 ページ29

「……恐れながら申し上げますが、これまでの調査報告の通り、彼は至って善良なエデン市民です。反社会的勢力や指定要注意団体との繋がりも一切ない。彼は都市エデンにとって脅威ではありません。身柄確保に踏み切る必要があるとは思えません」
「ほう。A・リューグナー隊員、君はいつの間にかよほど偉くなったようだな?」
「中央政府の決定を不服としているわけでは……ただ、理由がわからないと申し上げているのです。これではまるで、不当逮捕ではありませんか!」
「口を慎みたまえリューグナー隊員!!」

Aの言葉を、目の前の男は大声でぴしゃりと撥ね退けた。部屋中がびりびりと震えるほどの声で、男の目の奥には確かにわずかな動揺が見てとれた。

「……今の発言は中央政府への侮辱と受け取られかねんぞ」
「ですが!」
「そも、不当逮捕だから何だと言うのかね。違法捜査なんぞ公安局員ならば手慣れたものだろう。今更何を臆する必要がある?それとも……"梟"ともあろう者がネズミ一匹に(ほだ)されたか?」
「!……いえ、決してそのようなことは、」
「ならば何を心配することがある。我々の楽園(エデン)害獣(ネズミ)は必要ない。君たち"梟"はその害獣を狩ることこそが使命。違うかね?」

今度こそAは言い返せず、ぎり、と唇を噛んだ。その様子を見た男は勝ち誇った笑みを浮かべ、ドアのほうへとゆっくり歩いてくる。すれ違う直前、男は彼女の左肩にポンと手を置いて言った。

「君の働きに期待しているよ、A・リューグナー隊員。せいぜいお父上の顔に泥を塗らぬよう」

噛んだ唇からじわりと血がにじむ。男はそれに見向きもしないまま部屋を後にした。
空調の回る音だけが響く静かな部屋で、Aは一人取り残されていつまでも俯いていた。


──ローレン・イロアスの身柄拘束の任務がAに課せられてから数週間が経った。
幸いなことに、と言うべきなのだろうか、任務遂行の方法はその一切がAに任されているようで、彼女は「対象は多くの注目を集める人物であるため、慎重な計画を必要とする」との報告書を提出して、しばらくは機を伺うにとどめていた。……先延ばしにしていた、と言うのが正確な表現なのだろうが。

「……──ラさん、ライラさん!」
「あ、えっ?」

目の前で手をひらひらと振られて、ハッと彼女は我に返る。マネージャーが心配そうな顔で見つめてきていた。

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作者名:七福 | 作成日時:2024年3月9日 16時

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